「主水からの遺言」


 闇の仕事人・中村主水。凄腕の外道殺し屋を倒し、幾度もの修羅場を潜り抜け、奉行所の追及からも逃れてきた彼にも、遂に命運の尽きる時が来た……。
 いつもの如く、秀と勇次と組んで「裏の仕事」を終えた帰途、網を張って待ち構えていた奉行所の捕り方に、十重二十重と囲まれたのだ!阿修羅の如く斬りまくり、囲みを破ろうとした主水だったが 、斬られても斬られても押し寄せる捕り方の前に、頼りにした剣も折れ、遂に地面に捻じ伏せられる!かなりの傷を負いつつも、間一髪屋根伝いに逃れる事が出来た秀と勇次の姿を、かすむ目でちらと見やった主水は、ニヤリと笑って気を失った……。

「中村……。事もあろうに、お主が闇の仕事人だったとはな。返す返すも残念でならぬ!最後に、何か言いたい事はないか……?」
 今や、南町奉行にまで出世した、かつての主水の上司−村野様が、「罪人」として処刑場に引き出された主水に対し、苦渋の表情を浮かべて声を掛けた。連日に渡る過酷な拷問で、体中に傷を負い、もはや立つ事すらままならなくなっていた主水……。だが、その目は尚もギラギラと光っていた!
「言い…たい……事だって?……へへっ!そりゃあ……俺ぁ、まぎれもねえ……人殺し……よ。悪党……よ!首ぃ斬られたって……しょうが…ねえのは……俺自身、よ〜〜く分かってる……!だが…な……。俺ぁ、これっ…ぽっちも……後悔なんざ……してねえ。何故……かって……?」
 その瞬間、不敵に笑っていた主水の目が、強烈に見開かれた!(BGM:「新・必殺仕事人」〜仕事人から一言〜中村主水のテーマ)
「……俺が…今まで……裏の稼業で……殺してきた…奴等は……一人残らず……俺と同じ、人殺し……だったからだ!……女房…子供が……いる?上の者から……言われた?そんな事ぁ……」
 今や、誰一人声を発する事の出来ない雰囲気に陥った処刑場の中庭で、主水が村野様を睨み付ける。
「………関係ねえ!……そいつ等の仕業で……愛しい者を殺され……自分が死ぬより、深い悲しみを知った、大勢のモンが…いるから……俺は…今まで、ずっと……殺しを……続けてきた……んだ……」

「盗っ人にも、何とやら……か。もう、良い!」
 吐き捨てるように言った村野様の目配せで、主水の脇に立った首斬り役人・山田朝右衛門の太刀が、ゆっくりと上がり始めた。一瞬、僅かに目を閉じる朝右衛門……。そして、彼の振り上げた太刀が、ギラリと光った瞬間、主水が微かに顔を上げた。その脳裏に浮かんだのは、果たして「誰」だったのか……?振り降ろされる刃風を首に感じた主水が、満面に笑みを浮かべながら、周囲に響き渡るような大声で叫ぶ。
「………あばよう〜〜!!」


【完】




「必殺仕置人」エピソード0《ゼロ》


 南町奉行所同心・中村主水(藤田まこと)が「謎の失踪」を遂げてから、既に十数年……。縁者より養子の大治郎(正式な名前は「中村主水介大治郎」、通称・中村主水…である)を得て、かろうじて存続した中村家は、今もなお八丁堀組屋敷に住まいしていた。今日は、その年回忌の法要だ。義母のせん(菅井きん)・未亡人のりつ(白木万理)、妹の妙心尼(三島ゆり子)、久し振りに江戸へ戻って来た義弟の大吉(近藤洋介)、今は与力に昇進した田中様(山内としお)らが法事に臨んでいる。

「何でしょう?あの人たちは……?」

 本堂の外へちらちらと視線をやる田中様。寺の片隅には、何人もの謎の男たち(三田村邦彦・三浦友和・大出俊・中条きよし・滝田栄)らがたむろしていたからだ。

「義父(ちち)上は、八丁堀同心として市井に溶け込んでいましたから、多くの方々から慕われていたんでしょう」

 主水の死後養子となった大治郎(山口馬来也)の言葉に、眉をひそめて「そうだったかしら?」と疑念を呈する田中様。……と、そこへ「生前、中村様には大変お世話になりましたので」と申し出た妙齢の女性が、主水の位牌に向かって掌を合わせ、黙祷する。飛脚問屋「嶋屋」を再び立ち上げた女主人のおせい(草笛光子)だ!

『(心の中の声)主水さん。先に旅立たれた貴方には申し訳ないんですが、今も私は、無様に生き続けています』

 線香を上げながら、静かに過去を回想するおせい。それに被って、中村主水が活躍する名場面の数々!そして……。



タイトル「必殺仕置人 エピソード0」


 ここで、時は《過去》に戻る……。北大路主水(堺雅人)とりつ(武井咲)の婚礼の日だ。りつの二人の妹―あやとたえを始め、宴席には大勢の親類・縁者が集っている。仲人の火盗改長官・長谷川平蔵(中村吉右衛門)も、その弟で中村家の現当主・中村主水介吉左衛門(中村吉右衛門/二役)も、その妻のせん(秋野暢子)も満面に笑みを浮かべて嬉しそうだ。

「頼もしい婿殿を得て、俺も安心したよ、兄貴」
「……これで、中村家も安泰だな!」

 緊張で畏まっている主水を目にして、豪快に笑う平蔵と吉左衛門の兄弟。だが、その目出度き祝言の夜。現当主の主水が心の臓の発作を起こして急死!中村家にとってハレの場は、一転して悲しみの場と変わった。中村家に婿入りした途端、いきなり自らが喪主として葬儀を取り仕切る事になった主水の前に、音羽屋半右衛門(北小路欣也)と名乗る口入屋が現れる。

「先代の中村様には、大変お世話になっておりまして……」

 更に、観音長屋で主水と再会する元囚人の鉄(田中聖)。

「久し振りだな、主水!佐渡の金山以来か?」

 《TVシリーズ》とは異なる時間線を辿る「この世界の主水」は、正義に燃える同心として奉行所で活躍するのか?それとも、念仏の鉄と共に「仕置人」となるのだろうか?主水を狙う鍼医者・藤枝梅安(渡辺謙)とは何者か?音羽屋が、先代の主水に「大変世話になっていた」とは、如何なる意味なのか?そして、主水の視線の片隅にちらちらと見え隠れする、長身の行者(中村敦夫)の正体は……?


謎の行者「何度《時間》を巻き戻しても、八丁堀は《裏稼業》に行っちまうみたいだなあ……」

 音羽屋の奥座敷で、元締の半右衛門から金を受け取る、梅安・鉄……そして、主水。

謎の行者「だが、異なる《時間線》においては、八丁堀も炎に包まれて無残な死を遂げる事なく、京の都で、義母のせん、妻のりつと共に、心安らかな老後を送るだろう……」

 (挿入ショット)
 主水がそれと知らぬ間に、殺しの依頼を受けて、権の四郎(津川雅彦)をたたっ斬る渡辺小五郎(東山紀之)。「あんぎゃあ〜〜!」とけたたましい悲鳴を上げて倒れる権の四郎!
 そして、京の都の詫び住まいで、猫を抱きながら、こっくりこっくりと居眠りをする年老いた主水(どこからか「あなたぁ、庭の掃除をして下さいなあ!」と言う、りつの声が聞こえて来る)。

 ……そして再び、場面は「中村主水」の法要の場へと戻る。寺の境内で、かつて主水と戦いを共にした仕事師たちが、そっと静かに手を合わせる。

「『いつ』になっても、『どこ』へ行っても、あなたはあなた……。きっと変わらないと思いますわ」

 涙を流しつつも、笑顔のりつで……
【完】




「必殺からくり人」 さよならは花火の後でどうぞ


 千葉・浦安の海岸べりを散策する某知事(?)。沈む夕陽に照らされた砂浜には多くのカップルが点在し、彼方に東京ディズニーランドも見える。

「やあ、皆さん。今は多くの恋人たちで賑わっている、ここ浦安も、かつては普通の漁村でした……」

 「わっせ!わっせ!」と言う掛け声と共に、剣道着姿の青年たちが列をなして、走り込んでくる。「おお、頑張っとるなあ!」と声を掛けた某氏に「はいっ!」と笑顔で返す青年たち。その後姿を見送って「青春だなあ!」と呟く。その時、ド〜ン!−と言う大きな音と共に花火が上がる。

「どうやら、東京ディズニーランドから、恒例の花火が打ち上げられたようです」

 続け様に打ち上げられ、宵闇の空を彩る巨大な花火!そこから地上へパンするや……美しい花火に歓声を上げてるのは、江戸時代の人々だ。そして、花火を打ち上げているのは、何と仕掛けの天平(森田健作)だ!それを側で見つめていたのは、木更津から出てきた六蔵村長(木村功)と、からくり人の花乃屋仇吉(山田五十鈴)。すぐ側の浜辺では、着物の裾を捲り上げたとんぼ(ジュディ・オング)が、へろ松(間寛平)を相手にはしゃぎまわっている。それをニコニコした顔で見つめている藤兵衛(芦屋雁之助)と時次郎(緒形拳)の姿もある。

「花乃屋さん。今日は、江戸から遠い浦安までわざわざお越し頂き、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げて挨拶する木更津の村長・六蔵に向かい、ぶらりと夕涼みに出て来たと言った風情の仇吉が微笑む。

「いいんですよ、六蔵さん!六蔵さんこそ、木更津から浦安まで結構あるじゃありませんか?」
「ええ、まあ……(にこやかな表情から厳しい顔になり)頼み人の方々の事を考えると、我が儘はは言ってられませんからね!」
「(同じく笑顔から真剣な表情に変わり、小声で)……それで、殺る相手ですけど、この地の代官の……?」
「(同じく小声で)ええ……北大路大膳(寺島進)と言う男です。こいつに泣かされた人々は、両手の指で数えたって足りやしません!」

 そう言って両の拳を強く握りしめる六蔵。その目にも怒りの炎が浮かんでいる!

「本当なら、あたしの手でカタを付けるところなんですが……如何せん、手持ちの仕事人が何人も返り討ちに合っちまってね。誠に以て、お恥ずかしい話でさあ!」

 自らの不甲斐なさに自嘲して言う六蔵が、夜空に目をやる。

「今夜、この花火見物に、あいつらも出てきてます。後は……宜しくお願いします」

 頭を下げる六蔵に向かって頷く仇吉。傍らの時次郎・藤兵ヱに声を掛ける。

「じゃ行くよ、みんな……。天平、後は頼んだよ!」
「分かりました、元締。後からすぐに追いかけます!」

 サムズアップで返した天平、更に巨大な花火を打ち上げる!(パンショットして)大きな御座所に陣取り、夜空に輝く、美しい大輪の花火を楽しんでいる標的−大膳一党。

「それから、花乃屋さん。一言お伝えしておきますが……大膳の長男の主膳〈大泉洋〉、こいつは腕は大した事はないんですが、次男で庶子の主水(堺雅人)が相当の手練れですから、くれぐれも気を付けておくなさいまし」

 御座所に陣取った父親の大膳たちから少し離れた場所で、退屈そうにしている次男の北大路主水……彼こそ、後の「中村主水」である。

「ご忠告、ありがとうございます、六蔵さん」

 仇吉の言葉と同時に挿入される「負け犬の唄」。次々に打ち上げられる花火のショットに被って、闇の中を行く仇吉・時次郎・藤兵ヱ!標的である父・大膳の浮かれた姿を憎々しげに見つめる主水!


(挿入ショット) 顔に白布を被せられ、永遠の眠りについた主水の母(大膳の妾だ)を凝視する主水。

 ♪もう〜二度と〜〜笑わ〜ない〜〜眠りの中〜〜。寂しく〜俺は唄う〜〜ブルースを〜〜。

 何かを決意した主水、腰の大刀の鯉口を切り、ゆっくりと立ち上がる!交互にアップになる主水とからくり人一党の姿。ここでサブタイトル−「さよならは花火の後でどうぞ」


【ここで終わりです!(笑)】



《書け!必殺うらばなし》
「主水の遺言」
 この創作は、2008年3月に公開された、藤田氏主演の映画「明日への遺言」が発想の原点で、一つの"可能性"としての「主水の最期」を描いてみました。イメージBGMも、内容とリンクさせるべく「仕事人から一言〜中村主水のテーマ〜」を当てはめています。ちょっと、主水が「喋り過ぎ」なのは……まあ、勘弁して下さい!(笑)

「必殺仕置人 エピソード0」
 この創作は、クレイドール107号とのやり取りで、若き日の主水(堺雅人→後述)・先代主水(中村吉右衛門)・若き日の鉄(田中聖)と言うキャストを思い浮かべ、それが元になって生まれました。この作品には原型があり、事務屋青龍さんのHP「必殺!闇の仕事師達の頁」で人気を博した《Webどらま》の一編が元になっています(題名、失念!)。
 元作品では、「主水死す」で爆死した筈の主水が、気が付くと「中村家へ婿入りした時代」におり……先代主水の死・音羽屋半右衛門の出現を経て、クライマックスでは、実は《仕掛人》だった長谷川平蔵と主水との対決がメインになってます。うらごろしの先生が、超能力で主水の《時》を遡らせて、何度も主水の人生をやり直させるのも同じです(元ネタは、のび太の未来を変えようと試みる「ドラえもん」)。


「必殺からくり人 さよならは花火の後でどうぞ」
 この創作は、ツイッターで見かけた糸井貢・必殺語り人さんの「からくり人ネタ」がきっかけになって生まれました。冒頭で某千葉県知事(笑)を出してから、実際の本編同様に《本筋》につないでいるので、どうしてもパロディーになってしまいますが(笑)。尚、こちらの方が、前の「仕置人・エピソード0」よりも先に、「若き日の主水=堺雅人」と言うネタを使ってますが、主水の母が妾で、主水が若い頃に死んだ…と言う設定は、「中村主水の秘密」で書かれた記述を元にした〈創作長編〉―「必殺!血涙無情剣」が原型です。

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