【明治座9月特別公演】(1975年9月1〜26日/東京・明治座)


「必殺仕掛人」

池波正太郎
【あらすじ】

 大川に浮かぶ舟の中で、用人・川村佐十郎を見事に仕留めた仕掛人・藤枝梅安は、音羽の元締から次の仕事を依頼される。だが、同輩の仕掛人・彦次郎と共に、梅安が出会った侍−大和郡山藩の藩士・峯山又十郎は、かつて彦次郎の妻子を惨殺した男と"瓜二つ"であり……そして、今度の殺しの依頼人だったのだ!
 標的は、峯山の実弟・井口又蔵。7人もの配下を率いて「雷神党」と称し、乱暴狼藉・悪業の数々!正に、狼の如き外道だった。彦次郎と組んで、次々と雷神党を始末していく梅安。果たして、彦次郎は仇敵・井口を仕留める事が出来るのか……?



【作品解説】

 緒形拳主演・池波正太郎脚本の舞台版「必殺仕掛人」の存在が、始めて必殺ファンの目に触れたのは、山田誠二氏の「必殺シリーズ完全百科」……。その後、鬼平犯科帳のムック本から、時代劇マガジンの「仕掛人・藤枝梅安」特集号を経て、「池波正太郎・没後20年」に当たる今年、2010年にランダムハウスジャパン社から発売された脚本集「池波正太郎が書いた もう一つの「鬼平」「剣客」「梅安」」で、その詳細が明らかになった。ここでは、同書に完全収録された貴重なシナリオを元に、舞台版「必殺仕掛人」の全貌に迫ってみたいと思う。

 舞台の原型となった作品は、1972年8月に小説現代に発表された「秋風二人旅」で、奇しくもTV版「必殺仕掛人」放映の前月に当たっている。その後、「秋風二人旅」は、TVの"緒形拳・小林桂樹・渡辺謙の三種類のドラマ……更には、さいとう・たかを&武村勇治の両氏による2種類の劇画版と、様々なバリエーションが生まれている(この辺りの「秋風二人旅」各バージョンの違いに関しては、別項の
「仕掛人梅安/秋風二人旅」大研究 〜「原作」×「舞台」×「劇画・2作」×「TV・3作」 〜を参照の事)。
 時系列の流れで言うと、「原作」→「TV緒形版」→「舞台」(→その他)の順になっているが、原作者の手による脚本であるにも拘らず、「原作からの転用・相違点」「TV緒形版からの影響」「舞台ならではの特徴」が見受けられる。



 (1)「原作からの転用・相違点」
 舞台が始まってすぐに登場する「患者の下駄屋金蔵が、隠れて煙草を吸っているのを見つけた梅安が怒り、煙管をへし折る」下りは、梅安・初登場作品の「殺しの四人」から転用された。この一連の描写は、梅安の"表稼業"に対する峻烈さを示すと共に、"裏の顔(=怖さ)"をも仄めかしていて、「梅安の個性」を描き出すには最適だろう。それ故、舞台でも採用されたのではないだろうか?TVの緒形版でも、#1「仕掛けて仕損じなし」にて、アヴァンタイトルで"仕掛人"としての姿が描かれた後、表稼業たる"鍼医・梅安"が初登場する場面で使われた。
 また、原作&TVシリーズと違い、舞台は「梅安の個性」を、一回で"全て"説明しなければならない為、原作では「おんなごろし」で触れられている「梅安の過去」を、梅安が情夫のおもんに語っている(原作「おんなごろし」では、梅安は彦次郎に話した)。

 (2)「TV緒形版からの影響」
 TV版「必殺仕掛人」のラストでは、梅安が「真の悪党は誰だったのか?それは、お家大事・我が身可愛さから、実弟の殺しを依頼した峯山自身じゃなかったのか?」と言う意味の言葉を口にしているが……それに反して「峯山」自体は、さほど"悪党""偽善者"には描かれていない。
 これは、同一役者による「峯山」「井坂(井口、他)」の二役が同話のポイントであり、最初「峯山」を見た彦次郎が"自分の妻子を殺した仇"と思い込むも、実は"本当の仇"は弟の方だった!…と言うドンデン返しがメインになっている為だ。それ故、峯山自身も「悪党」だったら、その効果が薄れてしまうと言う訳である。実際、原作では、2年後に梅安と再会した峯山が「弟が病で死んだと嬉しそうに言う」と言う描写だけで、それに対する梅安のリアクションは登場しない。
 これが、舞台版のラストでは、彦次郎が「峯山のこらえてもこらえきれない笑い」を目にし、梅安が「ああ言うのが、一番の悪党かも知れないねえ」と述懐すると言う、TVの緒形版以上に、峯山の"偽善性"が協調されている。この辺りは、やはりTVの安倍徹郎氏の脚本に、原作者の池波氏が影響されていると言えるだろう。
 (3)「舞台ならではの特徴」
 《行間》を読ませる「小説」とは異なって、「舞台」は観客の目の前に、実際に《(役者の演技による)光景》を描き出さなければならない。それ故、この舞台では、井口一味が、原作の4人から8人へ増え、それに応じて、梅安と彦次郎の殺しの"数"も一気に増加した(内、二人の殺しは間接描写)。また、雷神党の行ないも、山吹屋での乱暴狼藉・岡っ引き殺し・蓬莱屋の女中の拉致…と、正に悪逆非道のオンパレードで、仕掛人(&観客にも)に「……あの野郎、生かしちゃおけねえ!」と思わせるようになっている。井口(井坂)を仕留めた手段も、原作での「毒殺」と言う地味な手段から、「毒殺+彦次郎の短刀」と、より"舞台"向けとなるように変更。主役の梅安が、彦次郎に「見せ場(=妻子の仇討ち)」を譲った格好になっているが、その分「梅安の殺し鍼」も舞台上で大活躍(笑)しているので、どうかご勘弁頂きたい!
 尚、TVの緒形版では、他作品に登場しない西村左内と井坂惣市の剣客同士の一騎打ちが見られる為、意外にも、より「時代劇っぽく」なっている。

 そして、今回の舞台ならではの《最大の相違点》は……原作・劇画・緒形版では「京」、小林・渡辺版では「府中」となっている"場面設定"が、全て「江戸」のままで進行するだと言う事だ!これは、ストーリーを"道中モノ"にしてしまうと、余計なセット・役者・場面転換が必要になってしまう為、ある意味で仕方ないと言えるだろう。
 そう言った「京→江戸」への設定変更に伴って、梅安に殺しを依頼した元締も「白子屋菊右衛門」から「音羽の半右衛門」へ変わり……梅安と峯山が出会った"師・津山悦堂の墓"も、原作の「京・伏見の欣浄寺」から「品川台町の長徳寺」へと変更されている(京の「欣浄寺」から、江戸の「長徳寺」へ分骨されたと言う設定)。尚、上記以外の細部に関しては、前述の「仕掛人・藤枝梅安/秋風二人旅」大研究を参照して頂きたい。

【スタッフ】
原作・脚本・演出:池波正太郎 照明:落合勝造 効果:辻亨二 美術:浜田右二郎 殺陣:宮本曠二朗
【キャスト】
◎藤枝梅安:緒形拳 ◎彦次郎:清水彰 ◎音羽の半右衛門:宮本曠二朗
◎峯山又十郎・井口又蔵:藤森達雄 ◎山田瀬兵衛・下駄屋金蔵:宮島誠 ◎清水惣市:御影伸介
◎白井弥平:南郷成吉 ◎勝蔵:名護屋一 ◎仁助:沢竜二 ◎粂八:森章二 ◎権太郎:西川信吾
◎おもと:久田尚美 ◎おもん:珠めぐみ ◎おみね・おしの:行友勝江 ……他。
【各種新聞資料】
舞台「必殺仕掛人」新聞資料(1)舞台「必殺仕掛人」新聞資料(2)


舞台「必殺仕掛人」新聞資料(3)


舞台「必殺仕掛人」新聞資料(4)舞台「必殺仕掛人」新聞資料(5)


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