必殺仕事人
名台詞で綴る「必殺仕事人」

〜 必殺仕事人《第1〜28話・評》 〜


 このページは、2011年8月の夏コミで発行予定だった、必殺研究会・音羽屋の「必殺仕事人《初期編》」特集号(第31号)に掲載予定だった原稿を載せています。その後、諸事情により延期され、現在(2015年5月)に至るも発行されていません……が、2015年5月12日、ディアゴスティーニ社より「必殺仕事人DVDコレクション」が発売!ツイッターが「この」話題で盛り上がっている《現在》、当時渾身の想いを込めて書いた原稿が、日の目を見ないままなのは余りにも哀しい!ーとの思いから、あえてネット上に公開することにしました。
 今後、「必殺仕事人DVDコレクション」の発行の進展と共に、この「名台詞で綴る必殺仕事人」のページと、私が担当した作品ガイド評(6話・13話・26話)を順に更新していこうと思います。もし今後、音羽屋の「仕事人・初期号」が(めでたく)発行の運びとなった際には……皆さん、どうか買って下さい!(笑)。


 【元締・鹿蔵編:第T〜6話】 

《はじめに》
 我が子の葬列と言う"悲劇"で幕を閉じた「必殺商売人」から「必殺からくり人 富嶽百景殺し旅」を経て、ストーリーの余りの過激さ(?)故に、視聴率が一ケタ台を低迷した「翔べ!必殺うらごろし」。「存続」か「打ち切り」か?……崖っ縁に追い込まれたスタッフが、シリーズの《原点》に戻ろうとしたのが、この「必殺仕事人」だ。「シンプルなタイトル」「貫禄ある裏稼業の元締」「ベテランの仕事師」「新規加入の浪人者」「コメディー担当の情報屋」……と、全てのフォーマットが、シリーズ第一作の「必殺仕掛人」を志向している。
 だが、ヤング層の獲得を目指した"若き仕事人"−「飾り職の秀」の登場が功を奏し、「必殺仕事人」は高視聴率を維持!見事な復活を遂げると共に、必殺は新たな時代−「仕事人シリーズ」に突入する事となった(もしかして、第1話サブタイの「主水の浮気は成功するか?」は、「主水の復帰は成功するか?」の意味にも掛かっていた?)。とりわけ、仕事人前半(#1〜28)は、傑作・話題作・問題作が続出し、ファンの評価も高いと思う。ここでは、各話に登場した「名台詞」を中心に、それぞれの物語の魅力と見所を、徹底的に追ってみよう。

◆第1話「主水の浮気は成功するか?」

 主水が、自ら「殺しのチーム」を結成した「仕置人」「仕留人」「仕業人」「商売人」と異なり、第三者からの誘い(&強制)が原因となった、三度目の裏稼業「復帰劇」。一度目は、主水の「仕置人」としての《裏の顔》を知っていたおこうの「仕置屋稼業」。二度目は、かつての盟友−念仏の鉄と寅の会による「新・必殺仕置人」。三度目が、今回……王手の鹿蔵による「必殺仕事人」だ。
 どの話でも、冒頭の主水は「裏稼業」から足を洗い、やりがいのない仕事にボヤキつつも、表稼業に専念している……。そして、「新仕置人」と「仕事人」において、再び「闇の世界」へ引き戻されようとした時、その脳裏に思い浮かぶのは、共に同じ光景……ドブ川の中で、ズタズタに斬られて、惨めに死んでいった男−「赤井剣之助」だ!主水がギリギリの瞬間まで、「殺しの泥沼」へ足を踏み入れようとしないのも、この二作品は同じである(おお、仇役は、どっちも「岸田森」じゃありませんか!(笑))。

 悪辣な豪商・叶屋が殺された事で、江戸から「仕業人」「商売人」が悉く姿を消し……ある種の"空白地帯"となった江戸に、再び「裏稼業の火」を灯すべく、勘定奉行の稲葉様を通じて、鹿蔵が主水を呼び戻した訳だが……叶屋殺しで、稲葉様と鹿蔵の仲立ちをした戸ヶ崎重内が、主水が裏稼業へ復帰する原因(&最初の標的)となったのだから皮肉だ。
 今回の悪役−戸ヶ崎兄弟は、実は「ステロタイプな悪役(=権力を笠に着て、大勢の人を泣かせる)」であり、ストーリーのメインは、主水が「裏稼業」への復帰を決意するまで……そして、鹿蔵に誘いを掛けられた畷左門が「殺しの世界」へ足を踏み入れる決心をするまでの、両者の「心の動き」にあると思う!(第2話以降では、各編の最初に「名台詞」を上げて行くが、ここではストーリーの進展と共に、「必殺仕事人」を代表するような、数々の「名台詞」に触れて行きたいと思う)。
 尚、秀の行動に関しては、戸ヶ崎兄弟の犠牲となったお栄(秀の愛人でもあった)への「供養」と、助けを求められた自分が、結果的に"見殺し"にしてしまった事への「後悔」からであり、主水たちの動きとは、クライマックスの殺し場面でしか"クロスオーバー"していない。

★主水と鹿蔵の初遭遇シーン
鹿蔵「如何でございましょう?戸ヶ崎兄弟の命、十両でお引き受け願えませんでしょうか?御定法では晴らせぬ恨みを晴らすのが、あなたのお仕事じゃなかったんですか……中村さん?」
主水「晴らせぬ恨みがどうのこうの言ってたが……一人や二人斬ったところで、世の中変わるモンじゃねえや。粋がって危ねえ橋渡るのは馬鹿のやる事だ。

 主水との初顔合わせで、いきなり鹿蔵が「裏の殺し」に言及する描写。「仕置屋」冒頭のおこうや「大集合」大坂シーンでの天平を連想させた。
★弟の重次郎にも、自分の秘密(=ユスリの種、稲葉様と鹿蔵の仲介をした事)を明かさない戸ヶ崎重内
重内「どのような事になろうとも、奉行の稲葉は俺を辞めさせはせん。いや……そう出来ぬ訳があるのだ。たとえ弟のお前でも、それは言えん。これだけは……言えぬ」

 悪党にしては、妙に律儀(笑)な重内。これが、鹿蔵と稲葉様の繋がりをギリギリまで隠す為の「伏線」になっている。尚、戸ヶ崎兄弟が、若干「ステロタイプな悪党」になっているのは、新レギュラーの描写に尺を取られる為、仕方のない事だろう。

★自分に瓜二つの仇の事を、左門から聞かされる主水
主水「こんな面ぁ、世の中に二つねえと思うが……また悪い奴に似たモンだ!」

 ここで、残念な点が一つ……。主水と左門の初遭遇(主水シリーズ・第1話では「恒例」となっている、主水と新仕事師の対決シーン!)で語られた、左門を仇と付け狙う権藤の設定だ!左門の妻・涼を、策を弄してモノにしようとした家老を斬って、親子三人で脱藩した左門……。その家老の倅・権藤は、主水と瓜二つだと言う(だが、太刀筋が違った)。
 この「お尋ね者として追われる身」と言う描写は、「仕業人」の赤井剣之助を思い出させ、その後も"左門一家のバックグラウンド"として、度々登場したが……もう一つの「主水と瓜二つの仇」と言うプロットは、「必殺仕事人」において、二度と活かされる事はなかった……。もし実現したなら、「藤田まことの二役」で、全く同じ風貌を持つ者の対決−「極悪主水VS邪悪主水!(?)」が見られたような気がしてならない……ウ〜〜ム、実に残念!!

 ……ただ、舞台「必殺・鳴門の渦潮」(作品ガイドは
こちら)では、藤田まこと氏は、お馴染みの「中村主水」と悪役の「姫縛りの玄内」の二役をされたそうだ。もしかしたら「仕事人」で活かされなかった設定の再現かもしれないが、詳細は不明である。

★自分が江戸へ戻された「裏の経緯」を、鹿蔵から聞かされた主水の独白
主水「俺を闇の稼業に戻そうったって、そうは行かねえぜ。この江戸に仕事人なんか一人もいやしねえ……みんな死んじまいやがった。ドブ川の中で、女房もろともズタズタに斬られて死んでった奴。市中引き回しの上、獄門晒し首になった奴。綺麗な死に方した奴は一人もいやしねえ……みんな苦しみながら、闇ん中へ消えて行きやがった。俺は、その仲間の死に様を、この目で見て来たんだ」

 主水の様々な台詞の中で、最も「熱く」……そして、最も「重い」言葉であり、自分の心の奥に隠し通していた「想い」を、主水が正直に吐き出した名場面だ!地獄への道連れとも言うべき、裏の仲間を「全て」失った主水……それに対して、笑みを浮かべながら、「まだ、これがある!」と言い切る鹿蔵の言葉が熱い。今回の物語における最大の見せ場は、実は「クライマックスの殺し」ではなく、この「主水と鹿蔵の"心と心の対決"」ではないだろうか……?

 主水の台詞に関して言うと、実は「ツッコミどころ」は山ほどあるのだが……。今回初めて「仕事人」と言う《呼称》が登場したにも関わらず、"もう"仕事人が一人もいないとか、主水の仲間で「市中引き回しの上、獄門晒し首になった奴」とは、一体誰なのか?(市松…じゃねえよなあ?)。まあ、それは言わないのがお約束!(笑)
 またこの時、仕業人や商売人等−殺し屋稼業に属する者たちの総称として、(マニアが良く使う)「闇の仕事師」と言うフレーズが登場するのが興味深い。この後、「必殺仕事人」が余りにも有名になり過ぎた為、「仕事人」が「必殺シリーズ」に登場する《全ての殺し屋たち》を指すものと思われてしまうのが、些か残念ではある(笑)。

鹿蔵「三途の川の水音が、すぐ聞こえるようになって来ると、人はみな昔の事を考えるものだ。わしは何をやってきた?今まで、わしは何をやってきたのだ、とね?そんな時、冥土へ持って行く土産がないと言うのは、酷く寂しいものなんだ。中村さん……お前さんは気の毒なお人だ。何もかも失くしてしまったらしいが、わしにはある。胸を張って冥土へ持って行く土産がね。……これだ!この手は叶屋を殺った手だからよ!」

★裏稼業へ足を踏み込む事を決意する左門
 そして、鹿蔵の「熱い想い」は、もう一人の「仕事人となるべき男」−畷左門の心も揺り動かす事になる。

左門「私は、もう逃げるのには飽きた!あなたのように、一生を戦い続けながら、己の宝を守って行きたくなった」

 結局、主水は「殺しの世界に、再び足を踏み入れる事に対する決意」を正直に口にする事なく、素人の左門が危なっかしいから…と言う、正にテキトーな理由(笑)で、裏稼業の再開に至る。後々の話においても、(主水から見た)鹿蔵の「存在感」は非常に大きいので、やはり主水の決意は、鹿蔵の言葉に心を動かされたからだろう……ただ、それを正直に認めるのが、照れ恥ずかしくて堪らなかった為、左門の言葉に便乗したのだと思う。

 ここまで来れば、後はもう「クライマックスの殺し」で終わり!……の筈が、最後の最後の土壇場で「謎の刺客」が出現!(以下……第2話に続く!!)そして、ラスト……相変わらずの「中村家コント(=突然、江戸へ戻って来たせんとりつ)」は別にして、笑い合う妻と娘の元へ帰って来た左門の描写が素晴らしい!たった今、人を斬ったばかりの「己の手」を無言のまま見つめる左門……何も知らなかった頃の「日常」に戻る事は、もはや二度と出来ない。彼は「地獄」へ繋がる一本道を、己の手で選んだのだから。そう……「必殺仕事人」、またの名を「畷左門の悲劇」と言う《物語》は、ここに幕を開けたのだ!

◎主水が八王子へ左遷されたのは半年前。「治安警備のベテラン同心の派遣要請」に、居ても居なくても変わらない主水に白羽の矢が立った。以後、主水はのんびりと毎日を過ごし、せんとりつは農作業に精を出す。
◎鹿蔵に五両で「主水殺し」を依頼された左門。(「仕掛人」で、半右衛門が左内をスカウトした場面を連想)。主水を「仇の権藤」と思い込んだ為に引き受ける。
◎主水の殺しのシーン。標的が渡された刀を引き抜こうとするや、柄だけがすっぽり抜けて刀身は鞘の中!「仕事人V」の柄抜き刺しの原点か?
◎水流迸る掘り割りの中で、凄腕の剣客−重次郎を倒す左内。だが、それは何処からか飛来したノミが、同時に標的を仕留めていたからだった。「俺の負けだ!」と吐き捨てるように叫ぶ左門。


◆第2話「主水おびえる!闇に光る眼は誰か?」
「これはわしの勘だが……闇の世界の泥水を、五十年すすって来たわしのね」(鹿蔵)
「こいつだ。この野郎だ……驚いたぜ、八丁堀が仕事人かよ!?」(秀)
「あんたの大事な人を殺したのは、この男だ……さ、存分におやんなさい!」(鹿蔵)


 ……と言う訳で、今回は「仕事人チーム」結成劇の第2幕。基本的に、一話完結方式である「必殺シリーズ」において、稀に「前後編」方式の話がある。(1)裏組織の崩壊(「仕事屋」「からくり人」「新・仕置人」「まっしぐら」最終2話)(2)黒幕の連続登場(「仕事屋」#13&14、「仕事人IV」「まっしぐら」「2009」最終2話)……そして、今回のような(3)謎の仕事人の新加入(「仕事人」#1&2、「2009」#12&13)だ。

 その為、主水と左門は、前話のラストで、自分たちの殺しに関わった「謎の人物(=秀)」と、夫を殺された井筒屋の女将・おいせの依頼による「正体不明の盗賊(=横堀の庄兵衛)」の探索を、同時に行なわねばならなくなり……結果、札差・三原屋の特殊な錠前を開けさせる為、横堀の庄兵衛の愛人だったおゆきが、秀の友人の錺り職人・宗次を騙して合鍵を作らせ、挙げ句に殺害!その仇を取る為、秀が主水たちの仲間入りをすると言う展開で、二本のストーリーラインが、ラストで見事に収束する構成となっている。
 しかも、なぜ仕事人から足を洗ったんだ?−と、鹿蔵に尋ねられた秀の言葉(必殺ファンにとっては、余りにも有名な台詞!)が、ラストの主水の問い掛けに対する「前振り」にもなっており、秀の性格をはっきりと表している。


秀「気に喰わなかったからよ〜〜!年くった奴は、どいつもこいつもだ!テメェ一人で世直しをしてる面しやがって、いろいろ理屈を付けやがる。この仕事はそんなモンじゃねえ!体の中がカーッと熱くなって、そのくせ妙にウキウキして、やった後は何も残らねえモンだ!」

 そして、仕事人たちが「庄兵衛一味」を仕置きして、終わり……ではない!殺しで「ドラマ」が終わるのではなく、「殺し」の後にも「ドラマ」があるのが、必殺シリーズの「傑作」たる所以だ!友人の仇−庄兵衛の息の根を止めようとする秀!それを止める主水。庄兵衛を殺すのは、彼の役目ではない……それは、夫を惨殺された依頼人・おいせの役目だ。「からくり人」#2の如く、自らの手で、憎っくき仇を討たせようとする鹿蔵。だが、彼女が悲願を果たす前に、庄兵衛は死んだ。慟哭するおいせ……。ここで、先程の「秀の台詞」を受けて、嫌味ったらしく言う主水の(これまた、必殺ファンの間で「物議」を呼んだ)「名台詞」が登場する!

主水「どうだ、若えの……気分がスカッとしたかい?おめェが、これまでやって来たのは仕事じゃねえ……ただのガキの遊びよ。本当の殺しってのは……いつもこんなに苦ぇモンだ。分かったかい!?」

 「必殺仕置人」で、"爽快極まりない表情"で仕置きをしていた頃と比較して、「変質だ!」「堕落だ!」と槍玉に上げられる事の多い(笑)、曰く付きの台詞だが……あくまで筆者の私見ではあるが、「必殺仕置人」においても、主水は決して「悪は滅んだ!めでてえな!」等と、能天気に殺しをしていた訳ではない。仕置きの瞬間に「笑み」を浮かべる事はあっても、そのラストは、やはり苦く悲しい……。世の為人の為ではなく、金を貰って人様の恨みを晴らす為に、苦く悲しい「殺しの裏稼業」は存在する……それは、どれだけ「時」が経っても、同じだと思う。

 ……閑話休題。この時、主水は秀を殺そうとはしなかった。それは、次の"秀の言葉"を待つまでもなく、既に「仲間」と見なしていたからではないか?


秀「待ってくれ!……良かったら、俺……おめェさんたちと組みてえんだ」
主水「ハ〜〜〜ッ。可哀想な野郎だ。おめェも、いい死に方できねえや」


 かくして、主水と左門・秀の「仕事人チーム」が結成され……主水と秀との「果てしなく長い付き合い」が、ここに始まる事となる。
◎中村家の玄関に立っているついたて。今回登場したものには「長楽萬年」と書かれている。では、後期仕事人ではお馴染みの「和気致福」はと言えば……。
◎鹿蔵の見極めでは、三段の腕前がある秀。五十両の賭将棋の目的を探る為、自分で自分の詰みを解説する鹿蔵。


◆第3話「仕事人危うし!あばくのは誰か?」
「ばばあの名前が『せん』。かかあが『りつ』。二人揃って『せんりつ』とくりゃあ、こちとら生きてるのが精一杯だ」(主水)
「それくらいの事は『裏の仕事』じゃない。裏の仕事に情が絡んではお終いだ。殺さなくちゃならない時は、たとえ赤ん坊でも殺せなくちゃ、この仕事は勤まらん。あんた……本当に心、捨てられるか?」(鹿蔵)
「与之さあ〜〜ん!私が殺してくれって、頼んじまったんだよう〜〜!堪忍しておくれえ〜〜!!」(おきぬ)


 一見すると、「極道な男に泣かされる、哀れな女の恨み晴らし」&「その男を追い続けていた、悲惨な女仇討ちの物語」……と思わせておいて、実は「仕事人を標的とした"スパイ大作戦"」だった!−と言うから驚きだ!(但し……ここからは、後述)仇を討つ方と討たれる方……敵味方同士が《裏》で繋がっている「狂言仇討ち」はともかく、遊び人・与之介の所業に苦しむおきぬの姿は「お芝居」ではなく、正真正銘「本物の涙」なのだから……。
 母も夜鷹であり(父は誰だか分からない)、子供の頃から夜鷹として生きて来たおきぬが、三年前に知り合った男が与之助だった。互いの腕に「きぬ命」「よの命」と刺青を彫り、とことん惚れた男に裏切られたおきぬの「与之助を殺せ〜〜!」と絶叫は、心の奥底からの叫びだったろう!それ故、女に同情した秀と左門は、こんな事を言っている。


秀「分かってるんだよ、闇の仕事人が情に走っちゃいけねえ事くらい。だけどな、元締!……俺は三途の川に片足掛かるほど、枯れちゃいねえんだよ!守らなきゃならねえ首っ枷もねえや。八丁堀ほど、シラケ鳥にもなれねえ」
左門「闇の仕事人とは御定法では晴らせぬ恨みを晴らす。一人では倒せない大きな力を倒す……その事だけでいいのか?本当に殺してやりたいと言う願いが、我と我が身を突き刺して、身を焦がすような恨みなら、たった一人の小さな敵を倒す事にだって、意味があるんじゃなかろうか?」


 この秀と左門の言葉は、「ある意味」では正しい……頼み料の金額の多寡、標的の悪辣さ・巨大さは、裏の仕事の「選択の基準」にはなり得ない。最も大事なのは「頼み人の悲しみや恨み」がどれだけ深いか?どれだけ重いのか?……そこにあるのだと思う。「少しでも未練があるようなら止めた方がいい」と忠告した鹿蔵も、おきぬの覚悟を見て取って「殺しの依頼」を受ける。

 ……だが、ここで、違う意味での「真実」を見通していた主水の言葉も上げるべきだろう。「あれは痴話喧嘩だ」「男と女の事は、手を付けると火傷するだけだ」「惚れるのと憎むのは紙一重だからな」……結果、今度の「殺しの依頼」が、与之助と古賀蔵人・南町奉行所の三者による「共同謀議」だった事が暴露され、その企てが打ち砕かれた後でも、(真実を知らされていなかった)おきぬは、目の前で愛人が殺される時になるや、「やめて〜〜!殺さないで〜〜!堪忍してえ〜〜!!」と、心の奥底に秘めていた激情を迸らせた!そう……正に、主水は「女の本心」を見抜いていたのだ!そして、女の目の前で、心の奥底から愛した男は死んだ。闇の中、川霧の中に消えるおきぬの叫びは、余りにも哀しい……。

 「愛」……と言うよりも、むしろ「情念」の虜となった女・おきぬを演じたのは、日活ロマンポルノの艶花として有名な田中真理だ。この田中真理の「熱演」あればこそ、同話が傑作になったと思えるのだが……嗚呼!それだからこそ「仕事人狩りの罠」などと言う、余分な設定は省いてほしかった!「仕事人危うし!」と言う危機を演出する為だとは言え、それがなくとも、おきぬと与之助の二人だけで「男と女の悲劇」は、十二分に物語となる得るのだから……。

 #10で、おとわは「約束を違えたら、命は頂く事になっております」と言っていたが……おきぬは、仕事人を騙していた訳ではない。与之助たちに操られて、仕事人を誘い出す「囮」にされていただけだ。だが……それでも、最後は鹿蔵によって命を断たれた。まるで、悪戯をした子供をあやすかの様に、「いい子だ、いい子だ……」と、優しく微笑んでいた鹿蔵が、次の瞬間無表情になり、そして非情の刃が女の体を刺し貫く!悲しみの果てに、静かに息絶えるおきぬ……。
 殺しの目撃者は殺すと言う「裏稼業の掟」からか?……それとも、仕事人を偽った者に「死の制裁」を与えたのか?……鹿蔵の「心の内」を窺い知る事は、誰にも出来ないだろう。

◎「奉行所も、自分たちの腹の中に仕事人を飼ってるとは、思っても見ねえだろうなあ?」と高笑いする悪党三人組!……主水の事もばれてたのか!?(但し、それらしき描写はなし)
◎仕事人探索を命じられていた田口様。#1で、主水を江戸へ呼び戻した責任者(同心・田口)と同じ名前だが「別人」か?(演者も異なっている)
◎ラスト。中村家へ帰って来た主水。せんとりつは爆睡中で、中へ入れて貰えない!「開けて下さい〜〜!」と情けなく訴えて、門の前でへたり込む主水で、ジ・エンド!(唐沢なをき氏の「私は「こんな主水死す!」が見たい(ような気がする)」で、よく似たオチをやってたなあ!(笑)←必殺同人誌「残り火」掲載)


◆第4話「主水は三途の川を避けられるか?」
「面白くもねえ!高利貸しの用心棒なんかやれるかよ!?」(秀)
「三途の川のせせらぎが、すぐ耳元まで聞こえてきています。三途の川を渡るにゃあ、渡り賃が必要とか?」(壬生蔵人)


 「関白の実弟」と言う地位をバックに、老中や大奥に大金をばら撒いて、権力を欲しいままにする日寛大僧正。その資金を用立てるのに、庶民に金を貸し付けては、アコギに取り立てる金貸し屋−更科屋金兵ヱ(略して「更金(サラキン)」!(笑))。その悪業に、泣かされる者・一家心中する者は数知れず……。巷に渦巻く怨嗟の声を目の当たりにする、秀や左門たち……。そんな外道を仕留めるべく、上方からやって来たのが、正体不明の一匹狼の仕事人−壬生蔵人。レギュラー以外の初仕事人・壬生蔵人を迫力で演じているのが、大物ゲスト(それとも「最強ゲスト」?(笑))の丹波哲郎だ。

 #1で「新チームの結成」、#2で「秀の参入」、#3で「仕事人狩りの罠」……そして、今回の「謎の仕事人の登場」と、危機また危機の連続に、生まれて間もない《仕事人組織》を守るべく、元締の鹿蔵が「組織の安泰」を計っても仕方のないところだろう……。だが、主水はさておき、秀や左門が釈然としないのは、十分頷ける。血気にはやって、頼まれもしないのに「更金」を狙う秀。蔵人と密かに接触し、その意志の固さを(同時に、蔵人の寿命が長くはない事も)知る鹿蔵。だが、一番の見所は、左門一家との遭遇だ!
 病で苦しんでいた蔵人を見かけて、家に連れて帰り、看病しようとする美鈴。「敵同士」とは知らぬまま、交流を深める蔵人と左門一家。そして、いよいよ最後の殺し」に向かおうとする蔵人の前に左門が立ち塞がり……初めて、互いの「裏の顔」を知る。この時の左門と蔵人のやり取りが、互いの「仕事人観」を物語っていて素晴らしい!


壬生蔵人「邪魔をするか?……と言う事は、あの綺麗な女房殿や娘御を悲しませる事になるが、良いか?」
左門「私は病人を斬るほど、まだ性格は腐っておらん。私には命を賭けて守るべき宝がある」
壬生蔵人「俺にも、命を賭けてやらねばならぬ仕事が……命を賭けて守る宝のあるお主は幸せ者だ」


 結局、前に立ち塞がる左門を斬ってまで、殺しの場に赴こうとした蔵人に対し、あえて左門は剣を交えようとしなかった。また、一時は「組織防衛」の為に、蔵人を「敵」に回そうとした鹿蔵も、最後には違う考えを持つに至っている。独断で更金を狙う秀に対しては、「秀さん。勝手な真似をするなら、わしの見えないところでやってくれ!わしの言う意味は分かるな?」……と、その行動を認め、蔵人を黙って行かせた左門に対しては、「あれが仕事人だ。殺す事の他、何も考えておらん。まあ……仕事人の生き様はどんなものか、良く見ておくがいい」……と、殺し以外に「己」を生かす道が無くなった仕事人の末路を示唆している。

 実際、クライマックスの「主役」は、完全に壬生蔵人であり、秀と左門はその「サポート役」に過ぎない。何と、主水は「殺し」さえもない!己の「為すべき事(=殺し)」を終えて、気力が潰えたのか……役人に捕まった蔵人と主水との、牢の格子を挟んでの対峙が、ある意味での「最大の対決シーン」とも言えるだろう!(苦痛に顔を歪めた蔵人の手から、殺しの武器=鼓が転がり落ちるシーンは悲しい……)
 自分たちの事を喋られないよう、蔵人を始末しに来た主水に対して……。


壬生蔵人「もうそろそろ、ゆっくりと眠りてえんだ!聞こえて来やがらあ……三途の川のせせらぎの音が。いや……これは、今までに俺が殺した連中の恨みに満ちた声かも知れねえ。早く来い来いと呼んでやがる。行き着く先は地獄の底でも、おめェら江戸の仕事人の事は、誰にも話しゃしねえよ。それが……俺の仕事人としての……心意気よ」

 最後まで、己の「仕事人としての意地」を貫き通し、全ての秘密を墓場まで持って行った蔵人に、主水は静かに頭を下げたのだった……。
◎「うちでは、更級屋から高利の金を借りてないだろうな?」と、主水に問い質されたせんりつ。敢然と否定するも、ラストではコッソリ借りていた分を、主水の夜勤代で返そうと大算段!
◎正体不明の仕事人をまんまと捕え、上機嫌の伊沢様の奢りで、同心たちは大宴会!一人居残りを命じられた同心・杉井に、当番代わりを申し出た主水。牢内の蔵人と対峙する。
◎ラストシーンは、「劇的な死」を迎えた蔵人とは対照的な、余りにも日常的な「中村家」の光景。メザシをかじりつつ、朝飯を取っていた主水が「幸せってのは、こう言う事を言うのかなあ?」と笑顔で呟いて……「幕」。


◆第5話「三十両で命が買えるか?」
「見ざる言わざる聞かざる。私たちの稼業には、昼間は死んだ振りして生きるのが方便でございますよ」(鹿蔵)

 威勢が良くって喧嘩が強い江戸っ子の人足・松吉。ヤクザの地上げ騒動に、お節介にも自分から首をつっ込んでいって、三十両もの大金が必要になり……自分の体を「売る」羽目に。ここで、彼を買ったのが「死神」(新・仕置人/#37・生命無用)だったら良かったのだが……。事もあろうにヤクザと裏で繋がっている、黒幕の悪党へ相談しに行った為、極道息子の「人殺しの罪」を着せられ、無残に斬首されてしまう「善人」の役を……何と「甲賀幻妖斎」こと、カリスマ悪役のオーラ200%の天津敏が演じているとは驚きだ!(嘘だろ?……おいっ!(爆))

 尚、今回登場する悪党の廻船問屋・井筒屋だが、「仕事人」前半においては、「井筒屋」「唐津屋」と言う屋号が、ストーリーに絡んで何度も登場する。
   井筒屋……#2・#9・#19/被害者、#5/#12・悪党
   唐津屋……#6/#11/被害者

 ……これは何故?(そりゃ、看板の使い回し……ゲホン!ゲホン!(笑))

◎冒頭、熱を出して寝込んでいた為、りつに生卵を飲まされる主水。ラストでは、新鮮な卵と野菜を買い出しに、八王子まで行かされる。
◎ヤクザの蕎麦屋への嫌がらせを目撃する左門親子。何も言わずに引き下がった父を見て、不機嫌になる美鈴(先の鹿蔵の台詞は、その事に対するもの)。
◎信太郎が小料理屋の女将を殺害した凶器は、強引に手に入れた秀の簪!そのせいで、秀まで命を狙われるものの、事件の真相が判明。


◆第6話「主水は葵の紋を斬れるか?」
「今こうしている間にも、どこかで誰かが……。情に溺れるなと秀に叱られたが」(鹿蔵)
「あんまり気にするな。後味の悪いのはお互い様だ。人には、それぞれ事情ってモノがあるんだ」(主水)


 詳細は、《作品感想の部屋》の同話ストーリーガイド&作品評をご覧頂くとして、ここでは、余りに濃密な内容から書き切れなかった箇所に触れたいと思う。
 最初の台詞に関して……聖二郎殺しの「二度目の依頼」は、お馴染みの稲葉様から。但し、これは「裏の仕事」を成立させる為の頼み料であり、秀や左門が殺しを引き受けたのは、同じ長屋で親しくしていたお美代(秀の食事の世話を毎日し、涼が花嫁衣裳を縫い、美鈴の遊び相手になり、そして秀が花嫁簪を贈った)が、無残な死に追いやられたから……と考えて間違いないだろう!先に上げた台詞が、聖二郎の犠牲となった人々に対する「供養の言葉」を意味している事からも、それは確かだ(尚、お美代の側からは、何の依頼もされていない)。酷な言い方かも知れないが……稲葉様の悲しみも、仕事人にとっては、所詮「他人事」なのだから。

 二つ目の台詞に関して……聖二郎の母・桃源院は、鹿蔵から「息子の凶行」を止めてくれるように頼まれただけで、決して「息子の死」を望んでいた訳ではない(また、鹿蔵に「聖二郎殺しの依頼」がされていた事も知りえる筈がない)。だが、ラストでは「それ」を予感していたかの如く 息子の死と時を同じくして、自害している。
 ここで思い出すのが、(1)「激闘編」#2/大仕事!大名殺し…と(2)「2009」#10/鬼の末路…の二編だ。(1)も(2)も、歪んだ感情から、次第に常軌を逸して行き、残忍な所業を繰り返すようになった息子を殺してくれるよう、実の母親が仕事人に依頼している(但し、その顛末は……息子殺しを依頼したと言う「己の罪」を悔いて自害した母親−(1)と、息子可愛さの余りに、土壇場で言を翻して、小五郎に斬り倒された母親−(2)と、正に天と地ほども違うが)。この「母親の自害」と言う光景が、仕置きを為し終えた仕事人たちに、より深い衝撃を与えたと言えるだろう。

 そして、本編最大のキャラクターである「松平聖二郎」に関して……。この人物については、本編のストーリーガイド&作品評で、かなり深く触れたが、二・三付け加えさせて頂くと……。
 クライマックスの主水との死闘では、非常に印象的なショットが連続する!権力の象徴だった「三つ葉葵の御紋」の提灯が燃え上がるシーン。一人静かに酒を飲んでいる聖二郎の元へ、滑るように近付いていく「画面」=主水の主観映像。聖二郎に向かって、用人二人が死んだ事を告げ(自分が「敵」だと言う事を、堂々と表明している!)、自ら名乗りを上げ、平伏しながら、聖二郎の目の前で、ゆっくりと剣を抜いていく主水(その時、聖二郎の剣も、ゆっくりと引かれている!)。
 この直後の斬り合いにおいても、障子の影に隠れて、聖二郎の体の様子が(視聴者に)見えない構図で、主水危機一髪!−と思わせる描写や、二刀流を振るう主水に、断末魔の如きあがきを見せる聖二郎…等、「単なる暗殺」や「チャンチャンバラバラの立ち回り」に終わらない見応え感がある!

 今話の目黒祐樹氏の大熱演あればこそ、「激突!」で目黒氏の再登場があった際、「成川が『ただの同心』の筈がない!……何かある!きっと『覆面組の影の首領』に違いない!」と数多くの必殺ファンの妄想を逞しくさせたのも、仕方のないところだろう(笑)。ちなみに、2009・#2では、剣道場の師範として「必殺シリーズへの三度目の登場」を果たし、非道な息子が剣術指南役を務める事になった大名家が「松平」と言うのも、同話へのリスペクトを感じさせた。

 最後にもう一人……闇の中、「白」無垢の花嫁が「黒」の着流しの男に連れ去れられる、余りにも印象的なシーン。美しくも儚い「薄幸の花嫁」役を演じられた諏訪アイさんは、元宝塚の男役出身の女優さんで(DVDマガジンの「秀号」にも、ゲスト写真が載ってますね〜〜!)、「必殺シリーズ」への出演は同話だけですが、現在は「諏訪あい」と言う名前で、京都で「諏訪ミュージカルスクール」の主宰者として、シャンソン歌手としても活躍。お嬢さんも二代続きのタカラジェンヌです。
 ここからは余談になりますが……私の父が元気だった頃、諏訪あいさんといろいろご縁があり、脚本家・石森史郎氏の推薦で、この話に出演が決まったと言う事を、直接ご本人からお聞きする事が出来ました!

 尚、鹿蔵元締の退場劇に関しては、第7話にて……。

【「必殺仕事人」 初期評:PART2へ続く 】



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