「主水、江戸城のお濠の鯉の番人になる」


=「大奥に参上!」 全バリエーション研究=


主水、大奥に参上!
 2002年8月に、東京・明治座で上演された「必殺仕事人/中村主水、大奥に参上!」の基本プロットは、1987年の7月の「藤田まこと特別公演・必殺仕事人/主水、大奥に参上!」(大阪・梅田コマ劇場)がオリジナルだ。
 藤田氏の死去により、この舞台が「藤田まこと演じる中村主水の最後の舞台」となったが……「剣劇人」での週一TVシリーズ(&南座での「納涼必殺まつり」も)の終了後、1989年から全国各地で行われた藤田=主水の必殺の舞台は、1989年・新宿コマ&1990年・名鉄ホールでの「地獄花」公演を除いて、全てが「主水、大奥に参上!」のバリエーションとなっている。


 ここでは、「主水、大奥に参上!」のストーリー展開となっている(確認できた範囲の)全ての舞台を取り上げ、キャスティングの変化によって、キャラ設定が如何に変化したか?…を検証してみる事にする。尚、「必殺」研究会・音羽屋の「殺した奴をまた殺す」Vol.22/必殺まっしぐら!−では、1989年7月・南座の舞台(別掲リスト(1))の「TV放映用台本」が掲載されている為、参考にさせて頂いた。



《基本ストーリー》
 江戸城のお堀の鯉の番人に左遷された主水は、江戸城内で権勢を振るう大奥御年寄・上尾の方、将軍家側用人・倉田甲斐守、廻船問屋・湊屋らの陰謀によって翻弄されて行く畳職人の備後屋清兵衛・竜次・佐太郎たちの恨みの涙を受け、仕事人仲間と共に、江戸城の抜け穴から大奥へと潜入して行く……。

《該当する舞台は、以下の舞台公演リストの内の9作品です》



(1)「藤田まこと特別公演 必殺仕事人/主水、大奥に参上!」(1989年7月/大阪・梅田コマ劇場)

(2)「藤田まこと特別公演 必殺仕事人/主水、大奥に参上!」(1991年4月〜5月/名古屋・名鉄ホール)

(3)「藤田まこと特別公演 必殺仕事人/主水、大奥に参上!」(1991年12月/東京・新宿コマ劇場)

(4)「南座八月特別公演 必殺/中村主水、大奥に参上!」(1996年8月/京都・南座)

(5)「藤田まこと特別公演/必殺仕事人」(1997年12月/東京・新宿コマ劇場)

(6)「藤田まこと特別公演/必殺仕事人」(1998年10月/名古屋・中日劇場)

(7)「藤田まこと特別公演/必殺仕事人」(1998年12月/大阪・劇場飛天)

(8)「藤田まこと特別公演 必殺仕事人/主水、大奥に参上!」(1999年10月〜11月/地方巡業版)

(9)「藤田まこと特別公演 必殺仕事人/中村主水、大奥に参上!」(2002年8月/東京・明治座)





◇畳職人・備後屋一家(被害者)

キャスティングによって、キャラ設定が最も変化するのが、このグループだ。
 ある時は、畳屋の主人である備後屋清兵衛と、若手職人・佐太郎の姉・おせんが許嫁の関係(A)。ある時は、畳職人・竜次の妹・おせんと、弟弟子の佐太郎が許嫁の関係(B)。またある時は、佐太郎とその弟弟子の竜次の姉・おせんが許嫁の関係(C)。更には、佐太郎と弟弟子の竜次の妹・おせんが許嫁の関係(D)…と、正にあらゆる順列組み合わせを試みるが如く、様々なパターンが見られる。

  《パターン:A》
 (4)の南座の舞台。親方の清兵衛とおせんが許嫁の関係になっている点は、他の場合とはかなり違っている。キャスティングは。
  ◎備後屋清兵衛(加納竜) ◎畳職人・佐太郎(高木延秀) ◎その姉・おせん(森崎めぐみ)

 この時は、「竜次」に相当する人物が存在せず、代わりに清兵衛が殺されてしまう(→後述)。

  《パターン:B》
「竜次の妹・おせんと、弟弟子の佐太郎が婚約」は、(1)の梅田コマと(2)の名鉄ホールの舞台。キャスティングは異なるものの、共に佐太郎が殺されてしまう。

 (1)◎備後屋清兵衛(島田順司)  ◎畳職人・竜次(加納竜)
  ◎その妹・おせん(麻丘めぐみ)  ◎弟弟子・佐太郎(草刈祐馬)

 (2)◎備後屋清兵衛(島田順司)  ◎畳職人・竜次(井上純一)
  ◎その妹・おせん(麻丘めぐみ)  ◎弟弟子・佐太郎(草木宏之)

 尚、島田順司が備後屋清兵衛を演じているのは、(1)〜(3)・(6)・(7)の舞台だが、(4)では悪役の湊屋。(5)では仕事人の元締役となっている。その為、《パターンB》の(1)では「竜次」を演じていた加納竜が、《パターンA》の(4)の舞台では、若主人としての備後屋で同様の役回り(おせんの婚約者で悪党に殺される)に変わらざるを得なくなってしまったようだ。

  《パターン:C》
「佐太郎と弟弟子の竜次の姉・おせんが婚約」は、(5)の新宿コマと(9)の明治座。キャスティングは異なるものの、共に佐太郎が殺されてしまう。

 (5)◎備後屋清兵衛(大場順)   ◎畳職人・佐太郎(頭師佳孝)
   ◎弟弟子・竜次(片桐光洋)   ◎その姉・おせん(北原佐和子)

 (9)◎備後屋清兵衛(島田順司) ◎畳職人・佐太郎(小野寺丈)
   ◎弟弟子・竜次(天宮良)    ◎その姉・おせん(田中綾子)

  《パターン:D》
「佐太郎と弟弟子の竜次の妹・おせんが婚約」は、(3)新宿コマ・(6)中日劇場・(7)劇場飛天の三つ。こちらもキャスティングは異なるものの、共に佐太郎が殺されてしまう。

 (3)◎備後屋清兵衛(島田順司)  ◎畳職人・佐太郎(大場順)
   ◎弟弟子・竜次(井上純一) ◎その妹・おせん(麻丘めぐみ)

 (6)◎備後屋清兵衛(島田順司) ◎畳職人・佐太郎(頭師佳孝)
   ◎弟弟子・竜次(井上純一)  ◎その妹・おせん(北原佐和子)

 (7)◎備後屋清兵衛(島田順司) ◎畳職人・佐太郎(頭師佳孝)
   ◎弟弟子・竜次(渋谷哲平)  ◎その妹・おせん(北原佐和子)


尚、(8)での組み合わせは、現時点で不明である。


◇仕事人


 中村主水を始めとする仕事人たち。本来、この舞台の主役である彼らを〔二番目〕に持ってきたのは、先の被害者の構成によって、クライマックスの仕事に加わるメンバーが変化する為である。

  ●(1)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎女仕事人・おゆき(峰さを理) ◎畳職人・竜次(加納竜)

 物語の最初から「仕事人」として登場するのは、主水とおゆきの二人だけだが……。「大奥に参上!」の舞台では、基本的に主水+もう一人の仕事人に、兄弟子(または弟弟子、主人)を殺害された人物(畳職人)がその仇を討つ為に、クライマックスでの仕置きに加わると言うストーリー展開になっている。ちなみに、(1)での竜次の武器は、本業で使っている畳針と小刀。
 また、(1)が、この後の舞台と違っている点は、主水たちが大奥内の別の人物から仕事の依頼を受け、その調査の為に、既におゆきが大奥に潜入していると言う状況にある事だ。従って、大奥の抜け穴はおゆきが発見している。

  ●(2)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎女仕事人・おゆき(池波志乃) ◎畳職人・竜次(井上純一)

 新たに入手できた舞台パンフの記述によると、原型である(1)のキャスティング違いで、竜次は「元・仕事人」と言う設定だそうだ(得物は不明)。

  ●(3)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎女仕事人・おゆき(池波志乃) ◎畳職人・竜次(井上純一)

 こちらも(2)の舞台と同じで、竜次は「元・仕事人」と言う設定(得物は不明)。現時点で確認できる範囲において、くノ一の女仕事人・おゆきが登場する《最後のバージョン》となっている。

  ●(4)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の女主人/仕事人の元締・お杏(江波杏子)
◎畳職人・佐太郎(高木延秀)

 今回、佐太郎の出自は、何故か「元忍者」(抜け忍?)で、クライマックスでは、組紐を使用する設定になっていた。これは佐太郎を演じる高木延秀が、アイドル・グループ「忍者」の一員だったからか?ただ、大奥へ潜入する抜け穴を知らせたのが誰だったかと言う点は(くノ一・おゆきが登場しない為)、舞台を見たのが随分前だったので忘れてしまった。
 尚、今回の舞台から、主水の「仕事人の元締」として、口入屋「末廣」の主人(舞台によって、男女の違いあり)が登場する。

  ●(5)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の主人/仕事人の元締・幸兵衛(島田順司)
◎女仕事人・お杏(佳那晃子) ◎畳職人・竜次(片桐光洋)

 今回は、島田順司が仕事人の元締を演じた為、仕事人メンバーが一人増加で、「末廣」の地下に仕事人たちのアジトがある。ただ、パンフレットの記載によると(舞台は未見)、元締は大奥での仕置きには加わっていないようだ。また竜次が使用した武器は「畳針」と思われるが、実際どうであったかは不明。また、こちらも、大奥へ潜入する抜け穴を、誰が仕事人に知らせたのかは、データ不足の為に不明である。
  ●(6)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の女主人/仕事人の元締・お杏(江波杏子)
◎「末廣」の番頭でお杏の配下・幸助(宮崎豊) ◎畳職人・竜次(井上純一)
  ●(7)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の女主人/仕事人の元締・お杏(江波杏子)
◎「末廣」の番頭でお杏の配下・幸助(宮崎豊) ◎畳職人・竜次(渋谷哲平)

 この二つの舞台のメンバー構成は、(4)とほぼ同一(佐太郎と竜次の違いはあり)だが、「末廣」の番頭でお杏の配下・幸助が仕事人メンバーに加わっている。パンフレットの記載によると(舞台は未見)、「末廣」の地下に仕事人たちのアジトがあり、幸助も主水たちと一緒に大奥に潜入しているが、大奥での仕置きに加わったかは(得物も含めて)不明である。また、竜次が使用した武器、並びに大奥への抜け穴を知らせた人物に関しても、同様に不明。

  ●(8)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の女主人/仕事人の元締・お杏(二宮さよ子)
◎畳職人・竜次(井上純一?)

 この舞台は、必殺FC「とらの会」会誌・第45号に、京都映画撮影所で、二宮さよ子演じるお杏の殺しシーンの映像が撮影された記事が載っているのと、筆者が確認できた同舞台のチラシしか情報がなく、詳細なデータ(お杏の配下・幸助の存在、畳職人・竜次?の得物、抜け穴を知らせた人物、等)は一切が不明である。

  ●(9)の舞台
◎中村主水(藤田まこと) ◎口入屋「末廣」の女主人/仕事人の元締・お杏(江波杏子)
◎「末廣」の番頭でお杏の配下・幸助(山本優) ◎畳職人・竜次(天宮良)

 この舞台は、パンフレットの記載によると、キャスティングは異なるものの、(7)&(8)の舞台の設定と同じようだ。但し、竜次の得物、抜け穴を知らせた人物については、他と同様に不明。




 尚、以下のキャスティング・バリエーションは、ストーリーには何ら「変更」をもたらさないが……それぞれの舞台で、どう言う役者が、それぞれの「役」を演じていたかを知るだけでも、必殺の舞台公演の「内容の豊富さ」を感じて頂けると思う。


◇小間物屋・音松

 物語の大きな要素ではあるものの、どちらかと言えばギャグ・メーカー的な役回りの音松は、それぞれ芸達者なコメディアンが演じている。
(1)音松(花紀京) 内縁の妻・おうた(小鹿みき)
(2)音松(花紀京) 内縁の妻・おうた(松岡由美)
(3)音松(花紀京) 内縁の妻・おうた(松岡由美)
(4)音松(花紀京) 内縁の妻・おうた(松岡由美)
(5)音松(芦屋小雁) 内縁の妻・おうた(上代粧子)
(6)音松(逢坂じゅん) 内縁の妻・おうた(有輝知春)
(7)音松(ぼんちおさむ) 内縁の妻・おうた(有輝知春)
(8)音松(ぼんちおさむ?) 内縁の妻・おうた(有輝知春?)
(9)音松(芦屋雁平) 内縁の妻・おうた(東風平千香)


◇悪党一味

 この物語の一つの目玉である、主水の妻=りつと瓜二つの大奥御年寄・上尾の方を演じているのは、当然白木万理だが……残る二人−側用人・倉田甲斐守と廻船問屋・湊屋は、舞台によって違った個性を持つ役者が演じている。
(1)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(遠藤太津朗) 湊屋惣兵衛(鈴木淳) 表使・お香(香川京子)
(2)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(中尾彬) 湊屋惣兵衛(鈴木淳) 表使・お香(夏川かほる)
(3)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(中尾彬) 湊屋惣兵衛(鈴木淳) 表使・お香(夏川かほる)
(4)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(川合伸旺) 湊屋惣兵衛(島田順司)
(5)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(亀石征一郎) 湊屋惣兵衛(細川智) 表使・お香(横江可緒里)
(6)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(亀石征一郎) 湊屋惣兵衛(細川智) 表使・お香(横江可緒里)
(7)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(遠藤太津朗) 湊屋惣兵衛(細川智)
(8)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(亀石征一郎?) 湊屋惣兵衛(細川智?)
    ※ この舞台はデータ不足の為、詳細不明。
(9)上尾の方(白木万理) 倉田甲斐守(大山克巳) 湊屋惣兵衛(成瀬正孝) 表使・お香(松川三夏)

 ストーリー的に、倉田甲斐守に比べて湊屋惣兵衛は役柄が小さい為、(4)の島田順司は折角のキャスティングなのに、川合伸旺に食われてしまっている。また、(1)〜(3)・(5)〜(6)(9)の舞台には、メインの悪党として「表使・お香」が加わっていた事が分かった為、未判明分の舞台でも登場している可能性が高い。(5)〜(7)と湊屋を演じた細川智は、中条きよしの「三味線屋勇次」の舞台では、悪党の岡っ引き・勘助として出演した。また、クライマックスでは、主水がりつにソックリな(笑)上尾の方に生まれた場所を尋ね、上尾が「××じゃ」と答えると、主水が「そりゃ良い。うちの女房(りつ)は○○(公演場所にちなんだ地名)なんだ!」と言って上尾を斬り、どっと観客の笑いを誘うと言うギャグが毎回登場している。

 その他のキャスティング面で興味深いのが、小者六平を演じる役者が、(1)&(4)では、TVシリーズと同じ妹尾友信((4)では「友有」と改名)だが、(2)は治田敦(妹尾氏は別の役で登場)。(3)は、なんと斉藤清六氏!(映画「必殺!」&「V」の石亀、「橋掛人」の松)。斉藤氏は、1989年・新宿コマ版の「地獄花」でも、六平役で登場している(1990年・名鉄ホール版の「地獄花」もか?)尚、(5)以降は中村信行となっている。
 更に、南座の納涼必殺まつりの頃は常連だったが、(1)・(2)では不在だった筆頭同心・田中役の山内としお(1990年のスペシャル「オール江戸警察」が、TVでの必殺の最後の出演)が(4)からカムバック!以降の舞台では全て登場している。

 こうして見ると、基本ストーリーはほぼ同一であるものの、キャスティングの変更によって、毎回内容が微妙に変化。それぞれ違った印象を与えていると言えるだろう。それでも、やっぱり「新作の舞台の中村主水が見たい!」と言う気持ちが筆者にもあったが、藤田氏の死去によって、遂に叶わぬ「夢」となってしまった……。


HPトップへ戻る 「空想の匣」へ戻る       目次へ戻る 「主水、南座に参上!」へ戻る