【納涼必殺まつり】(昭和60年8月3日〜25日/京都・南座)
「新・必殺仕事人」琉球・蛇皮線恨み節

……江戸の町に流れる琉球蛇尾線の調べ。将軍様に黒砂糖を献上する為、琉球王国の特使一行が到着した時、突如銃声が響き渡る!正体不明の二人の男たちによっり、偶然暗殺の企ては阻止されたものの、警護の責任者である薩摩藩の側用人・浜岡軍之助は、警備の不行き届きを、南町筆頭同心の田中様に向かって散々責め立てる。
かくして、特使一行を出迎える琉球舞踊に江戸土産の売り込みと、相変わらずお金儲けに余念のない加代だったが、門前で浜岡軍之助と出会った時、二人はあっと驚きの声を上げた。加代と軍之助は、何と初恋の間柄だったのだ!
懐かしき青春の日々……二人は「軍ちゃん」「加代ちゃん」と呼び合う恋人同士の仲だった。だが、足軽同然の身分だった軍之助は、加代を幸せにする為に出世したいと言い、それが元で二人は別れに至ったのだった。そして、今再び加代の恋が再燃し、二人は逢瀬を楽しむようになる……。
だが、江戸を訪れた琉球特使・海地碧道の真意は、薩摩藩に牛耳られている琉球王国の実情を、黒砂糖献上を名目に将軍様に直訴する事にあった。二通の直訴状を作成し、一通は自分…もう一通は娘の麗華に託す碧道。だが麗華は、薩摩藩士に暴行を受けて失語症に陥っていた。碧道の配下である比嘉の女房・白蓮は、何でも屋の加代に、麗華の身の隠し場所と失語症の治療を依頼する。
一方、加代の長屋で花屋を営んでいる政の元には竜が来ていた。今年の夏はかなり暑く、自分の家は風通しが悪いので、仕事場として加代の軒先を借りに来ているのだ。そんな最中、順之助の往診を受けに、白蓮に連れられてきた麗華は政に一目惚れしてしまう……。
だが、そう言った碧道たちの動きは、すべて薩摩藩側に筒抜けとなっていた。実は琉球特使の警護責任者である浜岡軍之助自身が、黒幕である薩摩藩江戸家老・石黒典膳と結託しており、白蓮も浜岡の配下・浦山の愛人となっていたのだった。
薩摩藩邸で、将軍様に琉球舞踊を披露し…そして直訴状を手に琉球王国の惨状を訴える碧道!だが、そこにいたのは将軍様ではなく石黒典膳その人だった。志半ばで惨殺される碧道たち。警護係として藩邸に詰めていた主水は、その直後犯行現場に出くわすも、因果を含めて口封じを命ぜられる。
そうして知った浜岡の真の姿を伝えるも、主水の言葉を信じようとしない加代。だが、浜岡は主水が「仕事人」である事までも嗅ぎつけ、更に白蓮の裏切りで、麗華さえもが石黒の毒牙にかかる!「仇を……」失語症だった麗華が、そう言葉を発して、政の目の前で息絶える……。浜岡の悪業を知り、泣き崩れる加代だったが、恋人から預かった金を仕事料に、主水たちに愛した男の仕置きを依頼した!
「薩摩のいも侍、たたっ斬ってやらあ!」
《解 説》 今回の舞台の上演期間は、1985年8月3日〜25日。「必殺仕事人V」終了後、「必殺橋掛人」の放映開始時期と重なっているが(クライマックスで、順之助の頼りなさを嘆く加代が「ああ、こんな時に津川雅彦さんがいてくれたら、あの世とこの世に橋を掛けてくれるのに……」と愚痴り(?)、更にラストシーンでは11月から放映の「激闘編」を宣伝)。ストーリー的には「必殺仕事人V」の中の一編…と言う扱いになっている。
尚、TVの録画中継では、舞台の前に「必殺・オン・ステージ」と題して、音楽ショー(「激闘編」の主題歌「女は海」を鮎川が披露)と兵隊コント「南の島にタマが散る」をダイジェストで展開。
そして、今回の舞台の注目点は次の三点だろう。
(1)琉球特使の将軍拝謁と暗殺未遂
この話の元ネタは、何と「必殺仕切人」#12/もしも江戸が厳戒体勢に入ったら(本放送は1984年11月16日で、1996年のテレビ東京系の再放送では放映が見送られた回!)で、舞台とTVの脚本家も同じ鵜野昭彦氏。だが、内容・設定として同じなのは、琉球特使が冒頭で狙撃される場面と、琉球の貿易経済を一手に握ろうとする薩摩藩の陰謀が存在すると言うくらいで、後の展開は全く違っている。仕切人の方が展開が複雑であり、麗華を巡る悲劇は、琉球特使を中心とした設定に有機的に結びついているとは言えない。別の話に接ぎ木しても、何ら変わりがないと言えよう。
(2)加代の初恋
えっ!……加代って、薩摩生まれだったの?(笑)二人で語り合い、見つめ合って……わざわざ映像シーンまで繰り出しての、加代の浜岡軍之助との初恋シーン。加代が薩摩出身とは知らなんだ〜〜(おそらくバックに映っている火山は桜島だろう)。ちなみに、加代の出身地をTVではどこと言っているのか……筆者は知らない。笑えるのは、浜岡軍之助の若き日の風貌が、演じている島田順司氏の当たり役「燃えよ剣」の沖田総司そっくりである事だ!
(3)動けない京本政樹
映画「ブラウン館」撮影時の事故で京本政樹氏が大怪我をしたのは、必殺ファンなら周知の事実だが……この舞台でも、それが尾を引いているのか、組紐屋の竜が動き回る場面が極端に少ない。組紐を編む場面は(セットの数を多くしないと言う事もあろうが)、前述の様に政の店の軒先で座ったままであり、冒頭の琉球特使狙撃犯を倒す場面とクライマックスで石黒典膳を仕留める場面・ラストシーンでもほとんど一カ所に立ったまま動かない(出陣・追跡シーンは映像処理されている)。一番ケッサクなのは、花道のセリで上がってきて、見栄を切ってから、何もせずにそのまんまセリで引っ込んでいくシーンである。何なんだ、ありゃ?(この時、竜の足下にすかさずおひねりを投げ入れたおばさまの姿がバッチリと映っている!)
※ 注 2001年に発売された京本氏の自伝−「METE JIDAIGEKI」での記述によると、当初は花道のセリで上がった後、舞台上にある連鎖劇用のスクリーンまで移動する予定だったようだ。この時、そのままセリで引っ込んだのは、やはり映画撮影時の怪我が元で、迅速に移動できなかった為か?
だが、再会したかつての恋人が悪党と化しており、その仕置きを主水たちに頼む事になる加代の悲恋は上手く描かれている。加代と政に対して、恋も愛もない仕事人の非情な世界を言い聞かせる主水も、定番ではあるがいい味だ……とは言うものの、クライマックスでの順之助とのシーンではしゃぎ回る加代は、どうにかならんのか?(笑)
最後に…西順之助は「仕事人V」終了後、次にTVで登場するのは、遙か後の「旋風編」となるので、受験生姿での登場はこの舞台がラストである(翌年の舞台「女・稲葉小僧」でも出演するが、受験生ではなく医師となっている。「旋風編」のプロトタイプか?)。
《出陣&殺しシーン・解説》☆政の出陣&殺しシーン
夜の町を走る政&舟遊びに興じる石黒たちが、共に映像で描かれ、更に舞台の花道を走って登場した政が、スクリーンの水の中に飛び込み(!)、舞台上で船の上の薩摩藩士・浦山を仕留める(BGM/荒野の果てに〜インスト)。

☆加代と順之助の出陣シーン
出陣シーンから、投石機で火炎弾を船に向かって発射するまでが映像で描かれる。だが、遠過ぎて届かないと言う事から、舞台上にゴムボートに乗った二人が現れて、スクリーンの中の船に向かって発射する事となる。尚、この投石機の形状はTVに登場したものとは、かなり違っている(BGM/「冬の花」ブラウン館未使用バージョン!)。
☆竜の出陣&殺しのシーン
出陣シーンはバンクの可能性が高い。その後、船に向かって組紐が投げられる場面までが映像で描かれ、土手の上から船上の石黒を締め上げる場面が舞台上となる(BGM/「仕事人V」殺しのテーマ)。
☆主水の出陣&殺しのシーン
出陣シーンは流れ橋を渡っての映像での登場。その後、浜岡軍之助と配下の侍たち・白蓮を始末するシーンはすべて舞台上となり、加代がかつての恋人の死を目にする展開となる(BGM/「やがて愛の日が」〜インスト)。
《よろず覚え書き》◎冒頭、琉球特使狙撃犯をつぶてで同時に倒す政と竜(命中したのは眉間)。
◎加代と軍之助が恋人だったのは10年以上前。舞台で、アジト・出陣・殺し以外での初めての映像場面として、二人の初恋の場面が描かれている。
◎お中元を届けて、田中様にゴマを擦る主水の同輩同心たち。石原為五郎と妻のはる(お中元は八つ目ウナギの燻製)・鈴木広太郎と妻のあき(持参した大荷物は与力の本多様宛て。田中様には小荷物だけだったので立腹)・渡辺と妻のなつ(お中元はウーロン茶の詰め合わせ)。尚、左記の同心の名前は、漢字不明の為に当て字を使用。
◎麗華が以前に掛かった医者は、麹町の大川松陰・神田明神下の原田桂祥・東町の清仁(こちらも、同様に医師の漢字は不明)先生だったが、加代が順之助を強引に推薦して決定。斡旋料は20文。
◎ラスト、琉球特産の黒砂糖を積んだ船の入港を行列を作って待ちわびる奥様連(当然りつもいる)。
◎南座の二階特別席から、舞台上の順之助に呼びかける玉助。ちなみに、そこにいたお客様は、札幌から来た娘さんと九州から来たおばあちゃん。
◎黒砂糖を自転車(「ブラウン館」のラストシーンで加代が乗っていたものに酷似)に積んで、これからアフリカの難民に持って行く…と言う加代。「いいかな〜?」と聞いて「いいとも〜〜!」と返事(「笑っていいとも」のパロディー)を受けた後、自転車を主水に支えて貰いながら花道へ。アフリカへ行って帰って来るのは10月末……「11月からは、また『仕事人』を見て頂きましょう」と宣伝して去る。
◎同公演のパンフレットには、前年の舞台−「からくり猫屋敷」の舞台写真(11枚)と、映画「ブラウン館」に出演された笑福亭鶴瓶氏のエッセイ−「必殺に出会って」、1985年5月5日に松竹京都映画撮影所で行われたファン参加イベント−「必殺ファン大集合!!」のスチール写真(18枚)が掲載されている。
《スタッフ》【作】山内久司 【脚色】鵜野昭彦 【演出】桜井洋三
《キャスト》◎中村主水(藤田まこと)◎なんでも屋の加代(鮎川いずみ)◎花屋の政(村上弘明)◎組紐屋の竜(京本政樹)◎西順之助(ひかる一平)◎りつ(白木万理)◎筆頭同心・田中(山内としお)◎玉助(梅津栄)◎同心・溝呂木(妹尾友信)◎浜岡軍之助(島田順司)◎石黒典膳(遠藤太津朗)◎海地碧道(芝本正)◎浦山(西園寺章雄)◎比嘉(松田明)◎麗華(井上ユカリ)◎白蓮(吉田哲子)◎玉琴(酒井葉子)