舞台版「地獄花」チラシ(1)舞台版「地獄花」チラシ(2)

舞台版「地獄花」

大研究



中村主水 VS 神谷兵十郎


 1987年9月15日(金)。「必殺剣劇人」《最終話》あばよ!−が放映され、土曜(仕掛人〜仕事屋/#13)と金曜(仕事屋/#14〜剣劇人)の夜10時に放映されていた「必殺シリーズ」の週一放映が終了した。それと時を同じくして、1981年・夏の「必殺・女ねずみ小僧」に始まった《納涼必殺まつり》も、1987年・夏の「地獄花」で終了となり……それ以後の《必殺》の舞台は、基本的に「藤田まこと特別公演」となった。
 この時期、幾つかの「主水、大奥に参上!」の舞台をはさみ、全国各地において、様々なバリエーションの「地獄花」の舞台が上演されている。ここでは、これまでに判明した、五つの舞台版「地獄花」を取り上げ、ストーリーやキャストについて研究・考察してみようと思う。尚、該当する舞台は、次の五作品である。



(1)必殺シリーズ十五周年記念興業「納涼必殺奮闘公演 新・必殺仕事人/地獄花」
(1987年8月1日〜25日 京都・南座)

(2)松竹特別公演「必殺仕事人スペシャル 地獄花」(1988年9月27日 佐賀県唐津市・唐津市民会館)

(3)藤田まこと特別公演「必殺仕事人 中村主水参上!(旧題・地獄花)」
(1988年10月4日〜29日 大阪・梅田コマ劇場)

(4)藤田まこと特別公演「必殺仕事人 地獄花」(1989年12月1日〜25日 東京・新宿コマ劇場)


(5)藤田まこと特別公演「必殺仕事人 地獄花」(1990年1月2日〜28日 名古屋・名鉄ホール)


《基本ストーリー》
 お馴染み、我らが八丁堀同心・中村主水も、今は左遷されて、八幡橋詰めの番小屋で無聊を囲う日々……。事件と言えば、江戸の庶民たちの他愛もない揉め事ばかりで、唯一の楽しみは、日本橋の呉服問屋・越後屋に仕立物を届けに行く美女・しずと、顔馴染みになれた事くらいだ。
 そんな折、闇の仕事人の元締・お艶の元で組んでいた相棒(念仏の鉄・早縄の清二)と共に、殺しに赴いた主水は、浪人・神谷兵十郎に「殺しの現場」を目撃されてしまう!士官の為に必要な金−五十両を得ようと、強請りをかけてきた神谷を主水は殺そうとするも、その凄腕故に仕損じてしまう。元締の仲裁で、仕事人となった神谷だったが、最初の殺しの場では、夫の為に「五十両の大金」を作ろうとしていた神谷の妻・しずが、悪党・永井監物に、自らの身を委ねていたのだった!
 だが、神谷は「妻の不貞」を知る事なく、標的を始末した後、一味の生き残りに刺されて死亡する。全ての真実を知った主水は、己の顔を知られる事なく、しずをその場から逃した。主水の相棒から「五十両の金」を届けられたしずは、「夫が殺しに手を染めた」と言う真実を知る事もなく、夫の菩提を弔う為に、主水から別れの言葉を受けて、江戸を離れるのだった……。




《神谷兵十郎としず、その愛と死》
 原典たる「必殺仕掛人」#21・地獄花……は、童話「賢者の贈り物」(妻が夫の為に、夫が妻の為に、自分の大事な品を処分するが、最後は「ほのぼのとしたハッピーエンド」になる)を真逆に裏返した「悲劇のストーリー」が綴られ、夫が「妻の不貞」を……妻が「夫の殺し屋稼業」を知り、絶望のどん底に陥った兵十郎が、しずを斬り殺して出奔!続編の#30「仕掛けに来た死んだ男」では、生ける屍と化した兵十郎が、四ツ玉の勘次の陰謀に手を貸して、音羽屋半右衛門の命を狙うものの、最後は半右衛門に刺され、己の望みが叶ったかのような表情で息絶える。……と言う結末だ。「地獄花」と神谷兵十郎に関しては「神谷兵十郎に弔い花をどうぞ」をご覧下さい。また、梅田コマ版「地獄花」の詳細については、該当ページをどうぞ。
 「続編」を作る事の出来る《TVシリーズ》とは異なり、その場で「決着」を付ける必要がある《舞台》では、神谷兵十郎は余りにも「あっけない死」を遂げてしまう(梅田コマ版「地獄花」の結末より)。だが、神谷夫婦が辿る「結末」は、TV版と舞台版を含めて、様々な《可能性》を考える事が出来るだろう。思い浮かんだ「結末」を、以下に列記すると……。


(1)神谷がしずを斬って出奔!その後は行方不明に……。
  (仕掛人版「地獄花」のラスト:神谷−生・しず−死)
  →これだと、続編の「仕掛けに来た死んだ男」がない舞台では、神谷の「その後の顛末」が分からず、観客が欲求不満(笑)に?

(2)神谷がしずを斬り、しずが神谷を刺して、二人共に命果てる。
  (「必殺!主水死す」のパターン:神谷・しず−死)
  →二人共に死んでしまう、最も悲惨な結末。舞台では上演不可能か?

(3)神谷がしずを斬り、その場で自害する。
  (神谷・しず−死)
  →(2)と似たパターンだが、若干「甘い」?

(4)神谷が自らしずに刺されて死亡。しずは「修羅の生」を辿る羽目に……。
  (神谷−死・しず−生)
  →若干「甘さ」が残るものの、ドラマ的には"順当"な結末。

(5)神谷は「標的の一人」に刺されて死亡。しずは、夫の《裏稼業》を知らぬままに生きる。
  (神谷−死・しず−生)

 ……結局、実際の舞台の「結末」は、一番あっけない(5)となった。ただ、原典で見られた「残酷な結末」を回避して、裏稼業の過酷さを知って息絶えた神谷が、しずに金を残し(梅田コマ版では、画面外で鉄が渡す)、しずが夫の菩提を弔う為に旅立つと言う「ラスト」は、ハッピーエンドではないものの、「救い」と「希望」のあるエンディングとなっていた。また、大勢の「必殺&藤田ファン」が見に来る舞台で、余りにハードな結末を「見せる」のは、《舞台》と言う性質上、相応しくないと思われたのかも知れない。


《主水は「地獄花」の夢を見るか?》
 また、梅田コマ版「地獄花」において、注目すべき点がもう一つ……。悪党の屋敷に、高額のアルバイトとしての「酌婦」=実は、男に体を売る「売春婦」として招かれた女たちの中に、しずと……そして、何とりつがいる事だ!勿論、りつの登場場面は、いつもの「中村家コント」風に描かれる為、悪党にも「嫌われた(笑)」りつは、貞操の危機に見舞われる事なく、あえなく縛り上げられて、物置にすっ転がらされてしまう(その後、仕置きに来た主水に発見された。尚、主水は、標的だった永井監物の警護役と弁明)。
 これは、ストーリー的には、全く「必然性」のない(笑)、無くても何ら構わない場面だ。それなのに、何故わざわざ、こんな場面を挿入したのか?これはおそらく、原典の「"殺し屋"が、悪党の屋敷で"妻"の姿を目撃する」と言うストーリーの中村家版パロディーであり、同時にオマージュではないだろうか?

 一つ間違えれば、りつは悪党にその身を委ね……主水がそれを目撃し、同時にりつが「主水の裏の顔」を知る。そう言った「可能性」を示唆しようとしたような気がする。時系列的には前後するが、「仕事人IV」お加代、りつの殺しを頼まれる…では、(主水の悪夢の中だが)主水とりつが、互いの「裏の顔」を知って、刺し違えると言う場面が描かれた。また、幻の作品である「山田会長版・主水死す」では、「主水の裏の顔」を知ったりつによって、主水は刺されて死に……映画「必殺!主水死す」では、りつならぬ「過去に愛した女・お夢」に刺されて、主水は息絶える。これら全ては、ある意味での「地獄花」の《主水版バリエーション》なのかも知れない。
 また、「助け人走る」#12・同心大疑惑…での主水は、「地獄花」と同じストーリー展開を辿りながらも、神谷兵十郎とは「異なる結末」に至った。これら、一連の作品の製作順は;


  ◆1973年1月21日&3月24日 「必殺仕掛人」#21・地獄花/#30・仕掛けに来た死んだ男
     ↓
  ◆1974年1月5日 「助け人走る」#12・同心大疑惑
     ↓
  ◆1984年 「必殺仕事人IV」#13・お加代、りつの殺しを頼まれる
     ↓
  ◆1987年8月1日〜25日 「納涼必殺まつり」新・必殺仕事人/地獄花(最初の「地獄花」公演)
     ↓
  ◆1992年 「山田会長版・主水死す」【幻の作品】
     ↓
  ◆1996年5月25日 映画「必殺!主水死す」公開


 ……となっている。但し、前述の五作品の「舞台花」公演の内、(2)では、何と「りつ」役の白木万理さんが欠場!おそらく、先に触れた一連のシーンは存在しないものと思われる。逆に、(4)では、1983年の南座「必殺・ぼたん燈籠」を最後に、必殺の舞台に《欠場》が続いていた、「せん」役の菅井きんさんが復帰!(1)〜(3)の舞台にはない「中村家のシーン」が復活している。ヤフオクで落札できなかった(5)の舞台パンフの出品者情報にも、「菅井きん」の名前が挙がっていたので、同舞台でも「中村家の場面」はあったのだろう。以下、5バージョンの「舞台版・地獄花」での「せん・りつ」出場の有無をまとめると……。
 (1)&(3)りつ−登場/せん−欠場 (2)りつ、せん−欠場 (4)&(5)りつ、せん−登場……となる(詳細なキャスティングは、後述を参照の事)。尚、菅井きんさんは、この間の「1989年7月」梅田コマと、「1991年4月」名鉄ホール以後の舞台−「主水、大奥に参上!」から、再び欠場となった。


《おめェが、三人目の「念仏の鉄」か!?》
 問題……。必殺シリーズで「棺桶の錠」を演じたのは、「沖雅也」ただ一人である……正解!(♪ピンポ〜ン!)更に、問題……。必殺シリーズで「念仏の鉄」を演じたのは、「山崎努」ただ一人である……不正解!(♪ブーッ!)TVシリーズでは、確かに「山崎努」ただ一人だが、この「舞台版・地獄花」では、山崎努の他に、二人の役者が「念仏の鉄」を演じている。
 一人目は(2)の西田真吾氏。誰、それ?…と思われるかも知れないが(笑)、SP「大老殺し」で、絵日傘の加代配下の若手仕事人・二人トンボの千太郎を演じた俳優だ(尚、(2)の舞台パンフには、西田氏演じる「念仏の鉄」のスチール写真はなし)。そして、二人目が(3)〜(5)の誠直也氏である((1)の「剣劇人バージョン・地獄花」の舞台には、念仏の鉄は登場しない)。

 (2)〜(5)の舞台の「念仏の鉄」の殺しは、唯一映像を見る事が出来た「梅田コマ版」と同じく、レントゲン&オシログラフ付きの「心臓つかみ」だと思われる(組紐技も併用)。改めて振り返るに、TVの必殺シリーズでは「鉄に類似したキャラクター&殺し技」が、度々登場するにも関わらず、なぜか「頚骨折りのレントゲン映像」は一度も登場していない!


  ◎「激闘編」:壱(柴俊夫)→頚骨折りだが、レントゲンなし。
  ◎「剣劇人」最終話:すたすたの松坊主(あおい輝彦)→レントゲン付きだが、心臓つかみ(衣装も鉄)
  ◎「春雨じゃ、悪人退治」:清吉(誠直也)→頚骨折りだが、レントゲンなし。


 鉄以外の殺し技だと……「仕留人」の大吉、「からくり人」の天平、「渡し人」の大吉、「2009〜2010」の涼次、「仕留人」の佐島昌軒(ゲスト悪役)で、レントゲンが使われている。また、「仕置人」で、天神の小六も一度「頚骨折り」を見せたが、レントゲンはなし。体の骨を折って殺す技を持つ《闇の仕事師》も、正道(島帰りの龍)・外道(「仕留人」の不動丸、「新仕置人」の玄達、等)を問わず、複数登場するが、やはりレントゲンは使われていない。
 これは、もしかして「頚骨折りのレントゲン映像」は、「仕置人」&「新仕置人」(#14・男狩無用)の念仏の鉄(山崎努)以外には使用しないと言う「不文律」でもあったのだろうか?(これは、全くの想像なのだが)
 尚、舞台版「地獄花」で使われている、レントゲンとオシログラフは、「剣劇人・最終話」でのすたすたの松坊主(さしずめ「念仏の松」?(笑))の殺しの時と同じく、本家「仕留人」の映像が流用されていると思われる。更に、(1)の舞台では、田中健氏の「早縄の清二」ではなく、あおい輝彦氏が演じる「念仏の鉄」が見たかった!そうすれば、舞台版「地獄花」における《主水の相棒》が、全て「念仏の鉄」に統一される上、「剣劇人」最終話とも(ある意味で)繋がるからだ。

 また、メインの登場人物以外のキャスティング面で注目すべき点と言うと……(4)&(5)の舞台で、「肝臓潰しの石亀」や「橋掛人の松」役の斉藤清六氏(お〜待たせいたしました〜〜!)が、主水付きの「小者・六平」役で登場している事。お馴染み、山内としお氏演じる「筆頭同心・田中様」が、(1)の舞台以後、暫く登場しない事(再登場は、1996年8月の南座「主水、大奥に参上!」から)。島田順司・松岡由美と言った、藤田組の役者さんが、度々登場している事。(3)の舞台のみ、悪商人の名前が「越前屋」となっている事((1)(2)(4)は「越後屋」、(5)は情報不足の為に不明)がある。
 パンフ未入手の(5)の舞台の詳細が不明な点や、(2)の"公演場所が異なった舞台"の可能性もあり(資料を提供して頂いたSさんの記憶より)、まだまだ情報の追加・整理も必要だ……。だが、ひとまずは、現時点で判明分の「5つの地獄花」の舞台のメイン・スタッフ&キャストを上げて、この項を終えたいと思う。



《舞台:メインスタッフ》

◎監修:山内久司 ◎原案:安倍徹郎 ◎脚本:保利吉紀 ◎演出:工藤栄一 ◎音楽:平尾昌晃


《舞台:メインキャスト》

(1)1987年8月1日〜25日 京都・南座
◎中村主水(藤田まこと) ◎早縄の清二(田中健) ◎神谷兵十郎(あおい輝彦)
◎しず(二宮さよ子) ◎りつ(白木万理) ◎筆頭同心・田中様(山内としお)
◎闇の元締・お艶(阿井美千子) ◎大滝伝八郎(島田順司) ◎小者・六平(妹尾友信)
◎永井監物(深江章喜) ◎越後屋(江波隆)

(2)1988年9月27日 佐賀県唐津市・唐津市民会館
◎中村主水(藤田まこと) ◎神谷兵十郎(中尾彬) ◎しず(麻丘めぐみ)
◎闇の元締・お艶(池波志乃) ◎念仏の鉄(西田真吾) ◎大滝伝八郎(島田順司)
◎大工・おさむ(ぼんちおさむ) ◎小者・六平(妹尾友信)
◎永井監物(江波隆) ◎越後屋(浅香春彦)

(3)1988年10月4日〜29日 大阪・梅田コマ劇場
◎中村主水(藤田まこと) ◎念仏の鉄(誠直也) ◎神谷兵十郎(中尾彬)
◎しず(麻丘めぐみ) ◎りつ(白木万理) ◎闇の元締・お艶(池波志乃)
◎大滝伝八郎(島田順司) ◎大工・おさむ(ぼんちおさむ) ◎小者・六平(妹尾友信)
◎永井監物(金田龍之介) ◎越前屋(鈴木淳)

(4)1989年12月1日〜25日 東京・新宿コマ劇場
◎中村主水(藤田まこと) ◎念仏の鉄(誠直也) ◎神谷兵十郎(中尾彬)
◎しず(麻丘めぐみ) ◎りつ(白木万理) ◎せん(菅井きん)
◎闇の元締・お艶(池波志乃) ◎大滝伝八郎(島田順司) ◎小者・六平(斉藤清六)
◎永井監物(金田龍之介) ◎越後屋(鈴木淳) ◎お光(松岡由美)

(5)1990年1月2日〜28日 名古屋・名鉄ホール
◎中村主水(藤田まこと) ◎念仏の鉄(誠直也) ◎神谷兵十郎(中尾彬)
◎しず(麻丘めぐみ) ◎りつ(白木万理) ◎せん(菅井きん)
◎闇の元締・お艶(池波志乃) ◎大滝伝八郎(島田順司) ◎小者・六平(斉藤清六)
◎永井監物(金田龍之介) ◎お光(松岡由美)


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