必殺断罪人


「必殺断罪人」

《番外編》




助人不要





《はじめに》

 「必殺断罪人」は、「必殺シリーズ」に深い愛情と敬意を持っていられる、オンライン作家の高柳総一郎さんが、小説投稿サイト「小説家になろう」に継続的に発表されている《異世界ファンタジー版「必殺仕置人」》です。同シリーズは、「必殺シリーズ」のオマージュやパロディーに満ちており……また、多くのネット作家が生み出したオリジナル・キャラクターを、毎回悪役or被害者役のゲストに迎えて、ストーリーが展開しています(プロローグ&設定編の「詮索不要」はこちら。残念ながら「必殺断罪人シリーズ」は、高柳さんの意向で、完結してしまいました……ウ〜ン、残念!)
 同シリーズの第19話
「巡会(めぐりあい)不要」では、私の創作「新必殺TNP」に登場する「仕事人・都(=筆者−都の商売人の分身です!(笑))」を、メインキャラクター・イオの過去に関わる「ミヤコ・ヘッジホッグ」として登用して頂きました。本編のラストでは"死んでしまう"ミヤコを、強引に"甦らせた"のが、この番外編−「助人不要」です。では、オリジナルのOPナレーションに続いて、どうぞ!



《OPナレーション》
  時は〈現代〉、所は〈異世界〉。
  光射す処に闇が蠢き、闇潜む処を光が照らす。
  悪党外道・無法者。禁断魔法、魑魅魍魎。
  百鬼夜行の此の世の果てに、地獄の使いの断罪人。
  冥府(あの世)の恨みは、現世(この世)で晴らす!



『おい、兄貴……何処へ行くんだよ?俺を置いてかねえでくれよ〜〜!』

 闇の中、無言で去って行くイオに向かって、声を限りに叫ぶミヤコ。だが、一瞬振り返ったイオは、哀しげな表情を浮かべたまま、何も応えようとしない。再びミヤコに背を向け、歩み去るイオ。その後を、必死に追おうとするミヤコ。だが、その足は鉛のように重く、その身体は錨のように動かない。どんどんどんどん、イオに引き離されて行くミヤコ。やがて、彼は眩い光の中で、思わず目を閉じ、そして……。

「よかった〜〜!ミヤコのおじちゃん、生きてた〜〜!!」
「もう死んじゃヤダ〜〜!絶対に死んじゃヤだあ〜〜!!」
「お、おめえらは……!俺は、死んだ筈じゃ……!?」

 目覚めたミヤコの目に入ったもの。それは,自分に取りすがって、ワンワン泣いているパラダイス孤児院の子供たちだった。

「ミヤコのおじちゃん、夜中に血だらけになって、ここに帰ってきたんだよ〜〜!それっきり目を覚まさないから、死んだんじゃないかって……。シスターも死んじゃったし、僕たちこれからどうしたら良いんだよう〜〜!」

 シスターが死んだ……。その言葉に、ミヤコは、元締のラビと憲兵官吏のビリー・ジョーンズが、イオの仲間に消された事を悟った。その瞬間、仰け反るほどの激痛が、ミヤコの身体を襲う。

「ぐあ〜〜〜っ!」

 激しく身悶えるミヤコ!子供たちの手で、ぐるぐる巻きにされた胸の包帯が、真っ赤な血で染まる!激痛の中、ミヤコは思った。

『俺は…俺は……死ななかったのか……?』

 イオのロザリオに仕込まれた針は、確かにミヤコの「胸」を刺し貫いていた。普通ならば、ミヤコは確実に息絶えていた。イオが「仕損じた」のではない。そんな不手際な殺しは、イオは絶対にしない。確実に、死に至らしめる急所−「心臓」を、イオの針は貫いていた。そう……「普通ならば」だ。ミヤコは「普通」ではなかった。彼の心臓は「右」にあったのである!

『俺は、俺の身体の秘密を、兄貴にも言ってなかったからなあ……』

 「心臓のない」左の胸を刺し貫かれたミヤコ。彼は「心臓のある」右の胸をそっと押さえた。そこからは、確かに脈々とした鼓動が伝わって来ている。血まみれではあったが、奇跡的に、イオの針は、血管や内臓と言った重要な臓器から外れていたのだ!
 激痛から"意識を失った"ミヤコを「死んだ」と思い込んだイオが、その場を立ち去り……やがて、半死半生の状態で目覚めたミヤコは、無意識の内にパラダイス孤児院まで辿り着いて、再び意識を失ったのだった。パラダイス孤児院では、子供たちにお菓子やおもちゃを買ってくれる「お金持ち」で、自分たちの事をいつも考えてくれる「世話役のおじちゃん」として、一心に慕われているミヤコの悲惨な姿に、子供たちは泣きながら手当てをしたのだ。

「待ってて、おじちゃん!今、キンおばちゃんを呼んでくるから……!」

 キンおばちゃんとは、孤児院の掃除や料理の手伝いをボランティアでしてくれる、近所に住む60代のおばあさんだ。子供たちがキンおばちゃんを呼びに、どっと部屋から飛び出して行った後、ミヤコは激痛によろめきながらも、ベッドから起き上がり部屋を出た。無意識の内にここまでやって来たとは言え、元締もビリー・ジョーンズも死んだ「今」となっては、もう"ここ"には居られない……。自分は「光」の中にいられる身じゃない。よろめきながら、「闇」の中へと消えていくミヤコは、何故か笑っていた。

「粋がって、大口叩いて、『死にやがれ!』なんて口走ったけどよ……やっぱり、兄貴は強ぇや!俺の敵う相手じゃねえや!……ハハッ!……ハハハハッ!!」

 いつしか降り出した雨にずぶ濡れになりながら、ミヤコは笑っていた。雨に濡れてはっきりとは分からなかったが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいたのだ。
 仲間は悉く死に、自分だけが助かった……。その皮肉な状況からか、自分の身の程を知らされたからか、彼の心の内に、イオに敗れた悔しさとか憎しみとかはなかった。ある意味、ミヤコは一度「死んだ」と言えるのかも知れない。人間、そんなに簡単には変われない。だが、確かに、彼の心の中で、何かが「死んで」、何かが「生まれた」のだ。他でもない、イオの手によって。そして、ミヤコは、二度とパラダイス孤児院に戻らなかった。その日から、数週間後……。

 イオは、いつもの如く懺悔室にいた。今日は、誰一人として懺悔に訪れる者もいない。思わず大欠伸をしたイオが呟く。

「ドモンとフィリュネ、ソニアが来るのもそろそろだな……」

 先日受けた、断罪の依頼の的分けだ。イオが、懺悔室を"店仕舞い"にしようとした時、フードで顔を隠した「一人の男」が中に入って来た。ちっと舌打ちしたイオが、再び神父の顔に戻って、営業用のスマイルを顔に浮かべる。

「迷える子羊よ……。私に、何か打ち明けたい事でもあるのですか?」
「神父様……神は、金のない小説家を救う事が出来ますか?」
「おめぇは……!!」

 はっとなったイオの目の前で、男はフードを取った。そこに現われたのは、無造作に降ろした黒髪に、無精髭……。ニヤリと笑った男は、低い声で言う。

「神父様、いや……イオの兄貴よぅ!」
「……てめえ、ミヤコか!?」

 確実に「仕留めた」筈だ!生きている訳がない!……そう、イオは思った。だが「現実」に、ミヤコは、イオの目の前で「生きて」いる。思わず、反射的に、胸のロザリオに手をやるイオ!「何故」ミヤコは生きているのか?……そんな事は考えたって仕方がない。大事なのは、仕留めた筈の標的が、自分の「目の前」にいる事だ。

 イオのロザリオのアップ……ミヤコの万年筆も大きく映し出される……。ロザリオから針が、万年筆からも針が飛び出る!微かに震える手……荒い息遣い……。額から滴り落ちる汗……カラカラに干上がる喉……。画面一杯のイオの目!そして、ミヤコの目……!激しく脈打つ心臓の鼓動!最大限にまで高まる緊張!そして……。


 ……ドモンとソニアが教会にやって来た時、イオとミヤコは相討ちになったまま、懺悔室で倒れていた。互いに、相手の胸に、己の得物を突き刺したまま……。「何てこった!」立ち尽くしたまま、思わず叫ぶソニア!「無駄な殺し合いなんかしやがって……」苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるように言うドモン!


 ……そんな「白昼夢」から、はっと覚めたイオが、目の前のミヤコを凝視し……そして笑い出した!

「や〜〜めた!お互い、相手の手の内を知り尽くしたモン同士で、無闇に殺り合ったって、ロクな結果になりゃしねえからなあ!」

 イオの突然の変貌に、どう対処していいか分からず、戸惑うミヤコ。

「それによ……。今んところ、俺は、お前を始末してくれって言う依頼を、誰からも受けちゃいねえ。俺は、タダで人殺しはやらねえ事にしてるんだ。それで、おめえは、一体ここに何しに来たんだ……ミヤコ?」
「え〜〜っと、俺はその〜〜〜あれ?」

 ミヤコ自身、ここへ……イオが神父を務める教会へ「何」をしに来たのか、イマイチ分かっていなかった。イオへの恨み?仲間を殺された復讐?そうではない……。"闇の世界"に生きるもの同士、そんな事が「無意味」だと言う事は、よく知っている。仕留めた筈の「標的」が生きていて、断罪人の前へのこのこ姿を現したりしたら、返り討ちにされかねない事も、いやと言うほど分かっている。自分の身の可愛さを考えるなら、生き延びたと言う「幸運」に感謝して、さっさとこの町から……イオの元から姿を消すのが至極当然だ。だが、それが分かっていて、ミヤコはイオの前に現われたのだ。

「か〜〜っ!全く……何も考えちゃいねえじゃねえか!頭で考えるより先に手が出る、ろくに考えもせずに行動する……俺と組んでた、あの頃のミヤコのまんまだぜ!」
「言うに事かいて、酷ェじゃねえか!それじゃ、俺が全くのノータリンみてえだ!」

 イオの言葉に納得行かない−と言った表情のミヤコが、思わず膨れっ面になる。

「……そうじゃないって言うのか?」

 たわいもない馬鹿話に花を咲かす内、二人の得物は懐に消え……その顔からは「殺意」が消えていた。それは……イオは思い出したくもないだろうが……かつてパラダイス孤児院で、シスター・ラビに命じられるまま、悪党を始末してきた、若き日のイオとミヤコのコンビそのままだった!


 ……闇の中、厳しい表情で無人の街中を行くイオ。屋根の上を突っ走るミヤコ。……雨のそぼ降る中、じっと標的を待ち伏せる二人。震えるミヤコに、自分の合羽を掛けてやるイオ。……凶悪な憲兵官吏相手に、湯屋で死闘を繰り広げる二人。……周囲を取り巻く、十数人ものゴロツキたちに向かい、背中合わせで対峙しながら,不敵に微笑む二人。……白昼堂々、電光石火の殺しを見せる二人。そして、強敵相手の断罪を成し遂げ、闇の中へ走り去って行くイオとミヤコ……。

『断罪……法によって処刑することを、帝国ではこう呼んだ。しかし、ここに言う断罪人とは、法の網をくぐってはびこる悪を裁く、闇の処刑人のことである。但し、この存在を証明する記録・古文書の類は、一切残っていない』

 それは、一度死んだ筈のミヤコの「夢想」なのか?……それとも、美化された「過去の記憶」だったのか?……それは、誰にも分からなかった。

「もう一度聞くがよ……。ミヤコ、おめえは何しに来たんだ?」
「俺は、その……そうだ!兄貴……兄貴は『助っ人』は要らねえか?」
「す、助っ人ぉ〜〜〜!?」
「ああ、兄貴に仲間を殺られちまったから……おっと、その事を恨んでる訳じゃねえぜ!そいつぁ、こんな稼業をやってる以上、お互い様だからな!だがよ……俺一人じゃ、断罪の請け負いなんか出来ねえんだよ。小説書いてるだけじゃ、いつもスカンピンだからなあ〜〜!」

 わざとらしい泣き顔を見せ、大袈裟に嘆いてる振りをするミヤコ。それを見つめるイオの目も、(違う意味で)冷ややかだ。

「……で、俺にどうしろって?」
「だ〜〜か〜〜ら、今も言ったろう?兄貴の手に負えそうにない大仕事が入った時で、構わねえからさあ!俺に、兄貴の断罪の助っ人をさせてくれねえか?」
「『助っ人』なんて要らねえよ……!いつまでも、グダグダつまらねえ事言ってるなら、おめえを断罪してほしいって依頼人を見つけてきて、さっさと始末してやるぜ!」
「わ、分かったよ……!」
「いいか……俺とお前は会わなかった。前も、今も……これからもだ!」

 イオの突き刺すような視線に、ようやくミヤコは立ち上がった。これ以上、ここにいると、本当に「始末」されかねない……そう感じたからだ!フードを被り直したミヤコは、懺悔室を出る前に、一度だけイオの方を振り返った。

「俺も、西の方に尋ねてみたい版元がいるから、イヴァンを出て、そっちの方に行ってみるさ。大体、この稼業自体、こっちでやり過ぎたと思ってたからなあ……まあ、いい潮時だぜ。最後に一言だけ言っとくがよ、兄貴……。俺は、悪党以外にただの一人も、この手に掛けた事はねえ!子供まで殺す外道にだけは、堕ちちゃいねえからな。それだけは信じてくれ」
「……さっさと、ここから出て行きやがれ」

 ミヤコの方を見ようともしないイオを尻目に、ミヤコは懺悔室を立ち去った。ちょうどその時やって来て、偶然にもすれ違ったドモンとソニアの、不思議そうな視線を背に受けながら……。

「……おいっ。イオ、あいつ……?」

 ドモンの疑問に対し、静かに被りを振るイオ。

「知らねえ……俺は、あいつの事なんか、金輪際知らねえ!」

 誰に聞かすともなく、イオは呟いた。「会わなかった」「知らない」……そう言いつつ、かつてミヤコと一緒に歌っていた童謡を、無意識の内に口ずさんでいる事も気付かぬまま……。その後、帝国辺境の港町−ナギサカで、イオやドモンたちが、異国人(一説に「異世界人」との風説あり)の殺し屋相手に繰り広げた大仕事…裏の世界では「断罪人大集結」と呼ばれる事件…で、イオがミヤコと「再会」するのは、これから5年後の事である。



「必殺断罪人」 助人不要 ー完ー


 《書け!必殺うらばなし》
 この創作は、「必殺断罪人」の作者・高柳さんが、「ぜひ他の方も『必殺断罪人』を、(二次創作として)書いて下さい!」…と言われていた事から、そのお言葉に甘えさせて頂いたのが契機です。ただ、イオのキャラクター(=鉄+やいとや?)がイマイチ分かっていない状態で書いたので、もしかすると「全く違う人物」になっているかも知れませんが(爆)、その際はどうかご容赦下さい!
 尚、読んでいて分かると思いますが、若き日のイオとミヤコのコンビは、「必殺仕置人」の念仏の鉄と棺桶の錠(的なイメージ)で、ラストシーンは、作者の高柳さんが、イオを「やいとや又右衛門」のイメージで書かれたらしい事から、「必殺仕業人」第10話/あんたこの宿命をどう思う…をモチーフにしています(ラストで又右衛門が呟いていた「歌」を、正確に確認出来ないのが何とも悔しい!)。
 その他のネタとしては……「逆心臓(=「暗闇仕留人」第22話)」「キンおばちゃん(=菅井きん/中村せん)」「目と目がカットバックで交錯する決闘シーン(=映画「続・夕陽のガンマン)」「西の方に訪ねてみたい版元がいる/やり過ぎた/いい潮時だ(=後期仕事人の解散劇でよく聞く台詞)」「会わなかった(=「新・必殺仕置人」冒頭で、鉄と再会した主水が言った言葉)」等々です。
 尚、HP版で追加したラストの一節は、「仕事人大集合」での、棺桶の錠と主水の再会(…とは言うものの、画面上では顔を合わしてませんが!(笑))をイメージしてみました。

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