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始まりの場所

 

 

 

【1】 

 

 

「あの階段を上がると、王がいるわけだな」

あと十歩ほど進めば長い階段にさしかかる位置で、若者は一呼吸おいた。

肩より少し上くらいまで伸びた黒髪に、ほどよく陽に焼けた肌。

身体はやや痩せ気味で一見すると頼りない印象を抱きがちだが、

よくよくしっかりと観察してみると、要所要所しっかりと筋肉がついている。

身体には余計な肉など少しもなく、相当に鍛え上げていることがよくわかる。

 

 

若者は二、三度あたりを見回した。

「城ってのはこんなに壮大なものか…」

石造りの荘厳な建物内は、若者の想像を遥かに超えた未知の場所であった。

巨人の魔物・ストーンマンでさえ腰を屈めずに居られるのではないか

という位の高い高い天井。

深き歴史と王族の優雅さがやわらかい光で表現されている壁付けのキャンドル。

そこかしこに、展示されるという風でもなくごく自然に存在している調度品は、

どれもこれも歴史に名を残す芸術家によって生み出された一級品だ。

それでいて、不要な派手さがあるわけでもない。

勇者ロトの時代からこの地を守ってきた伝統ある城にふさわしい気品を保っていた。

 

若者は思わず溜息を漏らした。

無理もない。かつて生活していた、古ぼけた木の小屋とは別世界なのだ。

彼の顔立ちは、中の上といった所だ。品が悪いようには見えない。

だが、彼がこの場に相応しいかと問われると、手放しに賛同はできかねる。

いささか若者には敷居が高すぎる感があるのだ。

それでも、歴史ある気高き城に彼は、少なからず好意を持った。

 

若者が歩みを進めると、王の間への階段を挟んで両側に一人ずつ、

兵士が配置されていた。

左側は、齢40程の中年兵士。右側は、若者と同じ年齢位に見える。

そのうち右側にいる兵士が口を開いた。

「王様に面会の者か?」

「ああ。16になったらラダトームを訪ねろっていう親父からの遺言で。

元々は爺さんの言いつけで、爺さんの名前を出せば

城の人がわかるだろうってことなんだが」

左側の兵士は、来訪者の言葉を信じていないのだろう、苦笑交じりで若者に質問を投げかけた。

「遺言?祖父君の名は?」

「ユキノフ。ドムドーラの武器屋だったユキノフだ」

その名を聞いた途端、左側の中年兵士が驚きの表情に変わった。

若者の顔をまじまじと見つめ、瞳をじぃっと覗き込む。

「俺の顔に何かついてるか?」

同性の、それも年齢が倍近く違う人間に凝視されるのは、決して心地良くはない。

若者は言われてみれば…と呟き、

中年兵士は階段を駆け上がっていった。

残された若い兵士は、尊敬する中年兵士を急かせた元凶である来客を注視した。

「おい、おまえはいったい…」

自分と同じ位に見える若造に素性を尋ねようとしたのと同時に、

尊敬する先輩がドタドタドタドタッと階段を駈け下りてきた。

「お待たせ致しました。王様がお待ちかねです。上へ」

先ほどとは異なり敬意を表した対応で、中年兵士は若者を促した。

黒髪の若者はひとつうなずくと、無言で階段を一段ずつゆっくりと登っていった。

 

薄汚れた旅人の服に、これまた薄汚れたマントの若造。

若い兵士には、尊敬する先輩が敬語を使うような相手には到底見えなかった。

「あの男、何者なのですか?」

中年兵士はやや震え気味の声で、答えた。

「あの方は恐らく、勇者様だ」

 

 

 

 

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