W:110 H:90 石膏着色 1980年

アテネの学堂

アルキメデスの肖像

ヘラクレイトスの肖像

ピュタゴラスの肖像

アテネの学堂 ラファエロ 

アテネの学堂 レリーフ 


 勤めはじめたころ、私はそれまでレリーフをほとんど手がけたことがありませんでした。
それでレリーフの技術を身につけようと思い、模刻をつくることにしたのです。
粘土はイタリア製の油粘土を使用し、背景となる学堂の建造物の形をあらかたつくることから
はじめました。参考とする写真(画集)から決めた倍率で拡大コピーを取り、それを基に
トレース図面を作成します。
トレース用紙は通常の紙製のものでなく、フジマットという薄いフィルム状のものを使用します。
ミケランジェロがシスティナ礼拝堂で最後の審判を描いた時も、原図をもとに型紙を作りそれで
アウトラインをつけてフレスコの壁画制作を行ったと聞いていますがそれと同じ方法です。
ただしこの模刻の場合、ラファエロが描いた形を基にしているので、構図や細々とした形を作り
出す最も難しい段階は免除され、ラファエロにおんぶに抱っこの状態です。
しかし、実際の作業に入るとトレースを引き写すだけとは言え、平面を三次元にする難しさに
直面します。
レリーフが大きくなり起伏が強くなるほどにトレースする人物の位置取りが困難になり、形の
辻つまが合わなくなるのです。
それに粘土をモデリングして行けば、大まかなアウトラインは残っても人物の顔や衣紋の線は
すぐに消え、最終的には感覚で判断して形を取って行くしかありません。

 制作開始の段階で一番難しかったのは、背景となる学堂内部の起伏をどれくらいに設定するか  
でした。背景の起伏はレリーフ全体の肉付けに影響し、背景に近い人物と手前に居る人物の
肉厚の変化に大きく関わるからです。
本来の作り方からすれば、人物を含めた全体像を大まかなところからつくり、「霧が晴れて細部が
現れるように」徐々に細かい部分をつくり上げて行くのでしょうが、この絵の場合、学堂内部の構造
物と多人数が複雑にからんでいることから、背景の起伏を先に決め、構造物の上に人物をトレース
し粘土をつけていく方法をとりました。

 絵の中には彫像もふくめ60人くらいの人物像が描かれていますが、人物だけで一日に二人つくる
のがやっとで、粘土を完成するのに半年ほどかかりました。

 油粘土は通常の塑造用粘土(水粘土)に較べ、はるかに細部をつくれる特長があります。
それでも人物の細かなところは石膏での修正に頼るしかなく、石膏の凹型を取り、修正と必要な彫り
込みを加え最終的な石膏の凸型へと進んでいきます。

 その段階でちょっとしたミスをしてしまいました。
石膏取りの割り出し作業での「欠け」を心配し、凸型を強度のあるケース用という石膏で取ったのです。
目論見どおり割り出し作業での欠けは少なかったのですが、修正作業に入りあまりの硬さに金属の
彫刻ベラが上滑りし削れないのです。
広大な荒地を前にして呆然とする庭師のようでした。
水で湿らすとやや彫りやすくなることを発見し、指先と手首の痛みを堪えながら修正作業が延々と続き
ました。
出来上がるまでに一年以上かかった、練習にしては大掛かりな模刻でした。