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森園政之 生空間設計

□さいとうクリニック増築工事

-森の香りから仁の香りのする
クリニックへ(完結編)-
     
     □建設地   岐阜県関市明生町
     □用 途    診療所
     □構 造    軸組木造・2階建
     □増築面積  131.59㎡(39.80坪)
     □竣 工    2013.01
     □撮 影    アトリエK Photo office
              (白黒写真を除く)
 
 4年前に設計・監理を行なった耳鼻咽喉科・アレルギー科の診療所+住宅の診療所部分の増築
 (一部改修を含む)工事です。敷地は人口重心地のある岐阜県関市内、低い山々に囲まれ、
 南に一級河川津保川が流れる、のどかな造成地にあります。都市計画区域・非線引き区域
 にあり、周囲には2階建ての住宅が点在する程度。敷地は三方道路に面し、田園や堤防の
 竹林、その背後に低い山々が望める恵まれた土地です。
 過去の自らの設計と向き合い、建物の内(諸室)と外(周辺環境)の双方を再度見つめ直し、
 更なる可能性を探求し、患者さん、スタッフさん、近隣の方々、この建物に関わる様々な人々の
 身になり、お施主様と共に、様々な思いやり・気配りを内外に散りばめていきました。

 ・森の広場に見立てた待合室「小さな社会」を、縁側と見立てた縁側待合で、周辺環境
  「外の社会」と結び、様々な孤と孤、孤と自然の対話を創出。
 ・診療室と処置室の「間」を再設定し、個人情報、個人感情を保護。
 ・人や車の回遊動線化により、身体的・精神的「逃げ道」と「小さな自由」を確保。
 ・スタッフルームと書院(院長室)を和風空間化し、「孤性化」を意図。
  という四つの基本方針を立てて

 ・時間軸 <既設部分と増築部分の関係性>
 ・空間軸 <建物の内(諸室)と外(周辺環境)の関係性>
       <患者ゾーンとスタッフゾーンの関係性>
 ・人間軸 <様々な孤の関係性>
       <孤・小さな社会・外の社会の関係性>
  という三つの軸の関係性を再構築し、相関関係の下で計画を進めていきました。
 
 増築工事で行なわれがちな、
 単なる補足という「付け足し」でもなければ、
 安易な刷新という「切り捨て」でもない、
 「物語を展開」し語り継ぐという選択をしました。
 前回工事で描いた、「森の香りのするクリニック」という物語に、
 今回工事でさらに、「仁の香りのするクリニック」という物語のつづきを描きました。

↑ before          南側外観          after ↓
 
 ◇南側外観

 診療所の家型断面がそのまま輪郭となり、既設ハイサイドライトをそのまま利用するため、
 下屋状に増築した縁側待合。やや閉鎖的だった既設待合室を明るく開放的にするために、
 間口いっぱいを連続するガラス面としました。

↑ before          西側外観          after ↓

 ◇西側外観
 
 開放的な敷地に地平線のような軒先の水平ライン、陰影を生む軒下空間、それらが素朴
 ですが存在感のあるファサードを形成。

↑ before          南西外観          after ↓
 
 ◇南西外観

 南や西に増築「展開」。それでいて一つの建物としての一体感を維持。


↑ before          北西外観          after ↓

 ◇北西外観

 2階書院部分はボリューム感を抑えるため、焼杉板貼りとし、生活感を隠すため、黒色塗装した
 木格子を2階正面全体に取り付け。

↑ before          北側外観          after ↓

 外観

 
2階建ての住宅が点在する町のはずれ、三方道路に面した敷地に立つと、不意に視界が
 開けます。周囲の低い山並み、竹林が茂る津保川堤防、広がる田園の存在に気付きます。
 既設建物は1階建ての診療所部分と2階建ての住宅部分をL型に繋げた構成。西側駐車場
 からは住宅部分が診療所によって隠され、診療所部分のみによってファサードが形成されて
 います。街中では見慣れない、既設1階の軒先の水平ラインやその軒の下の空間、雨や雪
 日差しから人を守る空間に、改めて新鮮な印象を受け、それを受け継いだ増築後の姿に
 可能性を求めました。南側津保川堤防側には深い軒先の水平ラインの下に、開口いっぱいの
 ガラス面を連続させ、待合室&縁側待合といった「小さな社会」と建物の周辺環境「外の社会」
 とを視覚で繋ぎました。

 
    既設スロープアプローチサイン
↑ before          スロープアプローチ          after ↓
   車寄せ→アプローチ
   車寄せ→アプローチ
  車寄せ外観(夕景)
 
 
 車寄せ&スロープ

 雨や雪の車の乗り降りの煩わしさを軽減するため、車寄せは今回工事の大きな要望事項の
 一つ。診療を行いながらの工事、限られた駐車場スペースから一方通行が無理なため、既設
 建物とは縁を切って独立したやや大きめの耐震性を備えた構造体としました。既設建物の
 東西軸線上に駐車場に突き出るようにして配し、6.3Mのスパンとして両方向から車で乗り付け
 られるようにしました。人や車の気配をお互いに感じ取れるよう、目透し貼りとし、耐力壁設置
 で生じるアルコーブスペースにベンチを置きました。軒先高さを既設建物と合わせ、西側耐力壁を
 クランクさせて軒下空間を創って親しみ易くし、既設建物との統一性を持たせました。
 晴天時には陰影で十字架が浮かび上り、雨天時には差し掛ける傘となり、
 夕暮れ時には、灯りとなって患者さんの足元を照らします。
 
     既設待合室 西→東
↑ before          待合室          after ↓
   待合室 西→東
 待合室 北西→南東
 待合室 北東→南西
 
 ◇待合室&縁側待合
 
 森の広場のように、待合室の既設ハイサイドライトから光が差し込み、見る人の視線を垂直に上げ、
 縁側待合の連続窓が周辺環境へと視界を水平に広げます。

   既設受付カウンター→待合室
↑ before          待合室          after ↓
受付カウンター→縁側待合
受付カウンター→縁側待合

 ◇受付カウンター
 
 一人で対応するコンパクトな受付ですが、待合室の南北軸線上に位置し、見通しが利き、
 待合室へも直ぐに行き来できます。

 
   既設待合室→受付カウンター
↑ before          受付カウンター          after ↓
待合室→受付カウンター
縁側待合→受付カウンター
 
 
待合室&縁側待合

 森の広場に見立てた待合室「小さな社会」を、縁側と見立てた縁側待合で、
 周辺環境「外の社会」と結び、様々な孤と孤、孤と自然の対話を創出。
 待つことを単なる時間の消費行為としてだけでなく、
 人や自然と寄り添う、大切な時間へと「展開」しました。

    土間コーナー
    補聴器相談室
      処置室
 
 
その他の諸室
 
 診療室や待合室以外の諸室は、極力限定しない多様な使われ方を検討しました。
 また、自然素材の杉板や米松化粧梁、珪藻土クロスで内装を施し、自然光や風景を
 導いて、治癒力を持った室内環境を目指しました。
 
 既設スタッフルーム  
 ◇スタッフルーム2

 スタッフが休憩時間にゴロ寝出来るよう和室とし、
 設置スペースが取れないため、6帖の和室の
 一辺に、丸い開口の中に吊り棚を持つ吊り棚
 を設けました。
 棚の東側側面に障子窓を嵌め込んでサンルーム
 の光を導き、木目を残しながら黒色塗装した
 大和張りの杉板を丸く縁取りました。
 凹凸に張られた杉板に光りと影を生じさせ、
 架空の庭をイメージさせました。
 その名も「円影窓」。
 テレビのスイッチを付ければ画面をくっきり見せる
 黒い背景となり、スイッチを消せばテレビと同化
 してテレビの存在感を消します。

↑ before 既設スタッフルーム          スタッフルーム2 after ↓
 スタッフルーム2(応接室)
 サンルーム→スタッフルーム2
スタッフルーム2→スタッフ玄関

 ◇スタッフ用玄関

 単なる通用口ではない、来客用としての設え。坪庭が覗く地窓、桧の小端立ての縁側、
 桧の羽目板貼りの玄関ドア。黒竹と縞黒檀と苔に見立てた塗り壁で架空の庭をイメージさせた
 飾り棚。その名も「円庭窓」。

     スタッフ玄関
 
 
スタッフゾーン

 既設建物では、狭くそっけないスタッフルームに勝手口のような通用口。
 今回、スタッフルームは二つ設けて一つは和室として、スタッフが寛げ、応接室としても使用できる、
 多様性を持たせました。スタッフルーム2とスタッフ用玄関は縁側で繋がれ、お施主様好みの和風の
 雰囲気の来客用玄関としても耐えうるよう、孤性化を意図しました。
 お施主様から手渡された雑誌の丸い落し掛けの床の間デザインに唐突な印象を受けながらも、
 そこからストーリー化しました。
 スタッフゾーンの周囲に魅力的な外部環境が無く、開口部も設けにくいため、
 「円光窓」、「円庭窓」、「円影窓」、「円空窓」という四つの架空の庭を
 イメージさせる窓を設置し、向かい合わせたり、直行させたり、平行配置させたりして、
 四つの窓を関係付けながらストーリー「展開」させました。
 スタッフルーム2を中心に3箇所の3枚引戸の開閉により、フレキシブルでサーキュレイトな
 機能的かつ意匠的ゾーンを形成してしています。


   2F書院(院長室)
 
 
◇畳床&床脇

 屋根勾配に沿って、登り梁も現しにした船底天井。書院造りの構え中央に床柱と落掛け
 による十字架が棟木を支えます。床柱の背後に刃掛け納まりでスリットを入れ、忍び寄る
 悪縁を断つように、孤高の医師(意思)に見立ててすくっと自立させました。

 
 
   2F書院+畳廊下
    2F書院+濡縁





2F濡縁(インナーバルコニー)
 ◇濡縁

 焼杉で囲われたパーソナルスペースに、敷地
 西側に広がる、児童公園、小山、その背後
 に位置する郷土の偉人・円空館といった
 コモンスペースを借景・借庭として枠取る開口、
 その名も「円空窓」。
 書院を本格的ではありませんが茶室、
 濡縁を腰掛けと見立てると、南の高窓は
 神様のにじり口に当り、西の「円空窓」は
 仏様・御先祖様のにじり口に見立てられる。
 その時、書院は全てと寄り添う孤室と
 なります。
 

 
書院(院長室)

 既設建物は事務室兼院長室だったので、今回独立した院長室を設置。1階にはスペースが
 取れないので2階に計画。外観デザイン上はボリュームを小さくしたいところですが、
 内部の使い勝手を優先させて機能的な諸室を周囲に廻らせてしっかり配置。
 診療所部分ではここだけ2階建てになるので、既設デザインに合うよう、下屋が連なり、
 既設屋根と連続する越屋根のように載せました。
 お施主様好みから数奇屋風書院造りと孤性化し、仕事や家庭でも人に囲まれ続ける生活
 から、独りになれる、孤独に浸れる居場所、孤守部屋(コモリベヤ)としました。
 再び、人々の元へ戻って行くために。

外観(夕景)





 
◇スタッフ用玄関ポーチ&濡縁(夕景)
 
 スタッフ用玄関ポーチ脇の坪庭の灯りが木格子
 の影をアスファルトに落とします。
 昼、敷地西側の風景を枠取った「円空窓」は
 夕暮れ時に灯りがともると、「円月窓」となり、
 瓦を水面のように輝かせます。


 ◇スタッフ用玄関

 スタッフ用玄関と2階への階段室との間に丸く
 開口を設け、黒竹と縞黒檀と掛け障子で
 階段室の小窓からの光をスタッフ用玄関に導き、
 光で架空の庭をイメージさせた飾り棚。
 その名も「円光窓」。


 
外観(夕景)

 夕暮れ時から夜にかけて、診療所は昼とは異なる表情を見せます。診療所中央に据えた
 ハイサイドライトは行灯のように静かな灯りを放ち、垂直の灯りの軸を立ち上げます。
 人工的な光りで照らされても、外壁の杉板はそっけなくそのまま反射するのではなく、
 柔らかな素材感を見る人に伝えます・・・○