伝えたい気持ち

 

 文字……それはとても大切な伝達手段。

 普段余計な建前や世間体が邪魔して言えない事を、相手に伝える事ができる、非常に優秀な伝達手段。

 まぁ、要するに私みたいなひねくれ者にはぴったりのものだったりする。

 

 

 

 少し前まで、大好きなのに嫌がらせをし続けなければいけなかった妹、そんな彼女に伝えたい気持ちを、余計なものに邪魔されないで伝えたい。その為に、私はそんな文字を使ってみようと思ったのだ。

 

 そう、困ったことに、せっかく仲直りしたのに葉留佳とは喧嘩してばかり。前みたいに深刻な争いじゃないし、あの子は楽しそうに笑っていてくれるからいいのだけど、どうしても、以前の癖できつくあたってしまうのだ。

 風紀委員としての立場というのもあるのだけど、それ以上に照れ隠しなのかなんなのか、ついついきつく当たってしまう。

 

 困った性格と言ってしまえば仕方がないのだけど、この前、葉留佳が私とクドリャフカが影踏みしている写真を風紀委員室に貼り付けた時、ついつい葉留佳を一緒にノリで貼り付けたのはちょっとやりすぎた。はがすのにはずいぶん苦労してしまったし、しかも写真をはがし忘れて翌朝は針のむしろだし。

 

 他にも、私の髪にチューリップを差した葉留佳を、学校裏の池に放り込んだ挙げ句「こんなところで海水浴?」なんて言い放って、しかもうっかりチューリップを差したまま教室に戻ってみたりとか、あと、級友の前で「えへへ」とか言って抱きついてきた葉留佳を、失神するまで締め上げてしまったりとか、最近はちょっとしたやりすぎが多い。

 

 おかげで最近『愉快な人』という評価が定着してしまった。怖がられているのよりはいい……のかしら? でもちょっと納得がいかないのでひとまず葉留佳に苦情を申し入れておいた、2〜3時間。

 それにしてもさすがに抱きつかれた時のフォーローに苦労した。そんなに仲良し姉妹と見られるのが嫌なの? とかなんとかっていじけるし……うっかり嫌に決まってるでしょと即答しちゃったし。

 

 まぁ、あの子はちゃんとわかってくれていると思うのだけど、さすがにこういうのを何回も続けていると不安になってしまう。

 あの子の前では絶対に言えないけれど、これは愛情の裏返し、大切な妹への、ちょっとしたコミュニケーションなのだ。うん、そうなのだ。そうなのよ?

 

 

 

「……こんな馬鹿な事考えてる場合じゃないわね」

 独語して時計を見る。いつの間にか針はずいぶんと進んでしまっていた、故障しているんじゃないかと思う位早い、残念ながら、部屋のどの時計も同じ時間を示していたから、故障ということはなさそうだ。

 とするとあの子が帰るまではおそらく1時間20分程度。お昼ご飯に眠り薬を仕込んで学校に置いてきたので、多分それ位はかかると思う。実験したし。

 だから、それまでにはちゃんと私の気持ちを伝えられるものを完成させないといけない。

 

 

 

 さて、視線の先には出来上がったケーキと、その上にのっかる予定の板チョコレート。ちなみにまだ文字は書かれていない。

 明日は私たちの誕生日。明日の昼はクドリャフカ達と、そして夜は家族みんなで祝うから、今日は二人、あの子の部屋でお祝いしようと約束したのだ。

 ケーキを作るとは言ってあったけど、チョコレートの板に何かメッセージを書いて、あの子を喜ばせてあげようという作戦。

 

 この為に、二人で作ろうという葉留佳に「あなたと一緒じゃケーキが出来るわけないじゃない」とか「指入りケーキなんてごめんだから、ケンタッキーかなんかでも買ってきなさい」とか心にもないことを言って追い払ったのだ。

 そんな事を言われて落ち込んでいるあの子に、実はかくかくしかじかであなたを驚かせる為だったのよと言ってあげれば、きっとあの子は大喜びしてくれるはず。

 その時に、素直になれなかった事を謝って、二人仲良くケーキを食べよう。おしゃべりしながらケーキを食べよう。

 今まで出来なかった分、たくさんたくさん仲良くするんだ。

 

 

 

「む……だからそんなこと考えている場合じゃないでしょ!」

 ケーキの上の生クリームみたいにとろけてる自分を叱咤する。このままにやけている状態で葉留佳が帰ってきたら、真っ赤な顔でこのケーキをぶつけてしまいそう。それじゃあ台無しだ。

 そう、問題はこの板チョコレートに何を書くか……だ。

 

 文字は気持ちを伝える為にとても便利、でも、それと同時に、扱い方を一つ間違えるととんでもない誤解や、悪感情を相手に抱かせてしまう諸刃の剣でもある。だから、慎重に慎重を重ねて適切な言葉を選ばなければいけない。

 

 ひとまず、最初に葉留佳への思いを全部書きつづった板チョコレートは、一番大きいメッセージ用の板チョコレート8枚を溶接した大作になり、結局、板チョコレートというよりもチョコレート板と化したそれの重みに耐えきれず、ケーキ1号は圧壊、チョコレート板もぐちゃぐちゃだ。

 続いて試作した板チョコレートには、やはり厳しい事も書かなきゃと注意事項を書き始めた結果、同じく16枚を溶接した超大作となり、自重を支えきれずに倒壊した。巻き込まれたケーキ2号も、ずいぶん派手にチョコフレークまみれになってしまった。

 

 まぁ考えてみればあれはあれで正解だったのだろう。あんなものを用意した日には、姉妹の間に決定的な亀裂が生まれかねない。

 前者の場合は引きつった笑顔でありがとうと言う葉留佳の顔が目に浮かぶし、後者の場合は泣きそうな笑顔でありがとうという葉留佳の顔が浮かんでくる。どちらにしてもあの子は私から一歩距離を置くに違いない。

 せめて、溶接は4枚程度に抑えておかなければいけない。でも、あの子に伝えたい事を、それだけで収めるのは困難な気がする。

 

「どうしようかしら……」

 また独り言。自分で言うのもなんだけど、私はずいぶんと寂しい人間らしい、寂しいからこんなになったのか、こんなだから寂しくなったのかは実に判断しにくい所なのだけれど。

 

 

 

 だけど、そうしている間にも時間は過ぎていく、着実に着実に……どうしよう。

 時計の針が憎たらしいほど軽快に進む。

 

 

 

「……うん。一番伝えたい事だけ伝えましょう。私があの子に一番伝えたい事、それだけを」

 私はそう思って板チョコレートを手に取る。

 少しだけ緊張、そしてずいぶんと恥ずかしい。でも、それは口にするよりは簡単だった、だから、思い切って文字を書く。

 

『いつもありがとう、大好きな妹へ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わふ!? 佳奈多さんっ、どうしたんですか? お部屋が真っ暗なのです!?」

「……ねぇクドリャフカ、直枝理樹殺していいかしら?」

「どどどどうしたんですかっ!? 突然物騒な事を言ってはいけないのですっ!!」

「人の妹を盗るなんて最低よね、盗られた者を奪りかえすのは当然よね。クドリャフカ、あなたのつてでライフルかなんか手に入らない? 戦車でもいいわ」

「佳奈多さん落ち着いて下さいなのですっ! 何があったんですか!?」

「せっかく姉妹水入らずでお誕生会……一ヶ月前から楽しみにしてたのに! 葉留佳ったら直枝理樹に誘われたからって明後日にしようって! あんなに恥ずかしい思いして書いたのにっ! ケーキも頑張ったのにっ! 葉留佳の馬鹿っ!!」

「わふっ!? お部屋がケーキだらけなのです!? 小毬さんが大喜びなのですっ」

「もういいわ、葉留佳を殺して私も死ねば私たちは二人だけよ……」

「駄目なのです佳奈多さん!それは無理心中って言うのですよ! ていくいっといーじーなのですっ……ってナイフをとるのは簡単だって言ったのではないのです〜」

「葉留佳のばかぁ……」

「わふ〜っ! ナイフ持ったまま抱きつかないで下さいっ! 誰か助けて下さいなのですっ!!」

 

 

 

 ちなみに、この後「いやははは、驚きましたかお姉ちゃん? 私が誕生会すっぽかしたりするはずはないじゃないデスか」と登場した葉留佳に大量のケーキが降りそそいだりだとか、その後、目を真っ赤にはらしていじける二木佳奈多と、それを慰める三枝葉留佳という、実に珍しい光景が見られたりだとか、葉留佳の持っていたケーキに『いつもありがとう、大好きなお姉ちゃんへ』と書かれた板チョコレートが載っていたりだとか、そんな事があったりなかったり。

 

 

 

『おしまい』

 

〜あとがき〜

 本命のこまりんSSの完成が絶望的となり、さらに予備のはるかな姉妹ものの進行も頓挫したのは締め切りの1時間前。

 ですが、ここで不参加だと三連続不参加になってしまうので……と頑張ってみたのがこれになります。

 例によって、大仰な言い回しのとぼけた前半(のつもり)にオチをつけて完成……というゆのつ的小話形式なのです。実は、流れとか考えずに勢いで突っ走れるので、小話は好きだったりしますw

 かきさんが、葉留佳が子犬みたいと仰っていましたが私も同感です。ED後の葉留佳って子犬みたいなイメージがあるんですよね。えへへとか言って佳奈多に抱きつくあたりとかw