「佳奈多さん佳奈多さん、見て下さい、山が凄く緑なのですっ! 海の色もとっても青いのですっ!!」
「言いたいことはわかるけどね、それじゃあ完璧にアホの子よ?」
「わふ?」
「はぁ……まぁ確かにとても濃い色、街じゃとても見られないわね」
「あ、瓦屋根のお家が木でできているのですよ、みんなそうなのですっ! この瓦は石州瓦なのですっ! わふーっ古き良き日本の景色なのですっ!!」
「大はしゃぎねクドリャフカ」
「トーキョーはビルばっかりで何にもないのです、私は日本の景色が大好きなのですっ!」
「……そういうところは外国人らしいんだから、あなた。まぁそれはいいわ、でもね」
「わふ?」
「だからって突然列車を降りる事は無いでしょうっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいっ! だから回さないで下さい佳奈多さん、回さないで下さいーっ!!」





                                  〜二人の途中下車〜





「わふ……まだ目の前がぐるぐるなのです〜」
 まだホームが揺れているのです。草がぴょこぴょこ生えてるホームが、あっちにゆらゆらこっちにゆらゆらでなんか船酔いしそうなのです、陸なのに。
 私はコマじゃないのですっ! って言ったら、佳奈多さんに「そうだったの? 今まで気付かなかったわ」と返されました。そしてまた回されました……わふ……
 へろへろな私に、佳奈多さんが言います。
「自業自得っていうのよ、クドリャフカ」
「うう……無理矢理佳奈多さんを連れてきてしまったのには謝りますけど、でもちょっとやりすぎな気がするのです……」
 私は、そう言うとベンチによろよろと座り込みました。
そのままごろんと横になると、青空がすっと広がって、とってもビューティフルなのですっ!

 そう、今日はみんなで旅行だったのです。
 リトルバスターズみんなで、海にお出かけ。今年はちょっと遠出しようと、夜行列車と特急列車を乗り継いでやってきたのです。
 それで真っ赤なヂーゼルカーに乗り換えます……ちなみに、そう言ったら、佳奈多に『昔の英語の先生みたいね』と誉められました、英語の先生だなんてびっくりです、おおはしゃぎなのです。
 野を越え山越え川越えて、ヂーゼルカーは走ります。皆さんとこんな風に旅行できて、とっても嬉しいのです。
 その列車の中では、わいわいと皆さんが騒いでいる場所からちょっとだけ離れて、私と佳奈多さんは座っていたのです。
 そして、瓦屋根の屋根がびっしり並んでいる景色に我慢できなくなって、つい……



〜回想〜

「佳奈多さん佳奈多さんっ! 見て下さいっ! 神社なのですっお社なのですっ! あ、あの学校屋根が瓦です。わふーっ! 私もあんな学校で勉強したかったのですっ!!」
「はぁ、クドリャフカ、もうちょっと落ち着きなさい。そんなに喜ぶような事なの? ただの田舎の景色じゃない」
「はいっ! こんな景色を見てるともーわくわくしてわくわくして……えっとわくわくしてしまうのですっ!!」
「はぁ、仕方がない子ね。降りてみたいの?」
「はいっ! 今度来るときは、是非降りてゆっくり歩いてみたいのです!!」
「じゃあ今降りましょうか」
「わふ?」
「葉留佳、葉留佳、私たちちょっと出かけてくるから荷物頼むわね」
「え、お姉ちゃん? 出かけてくるってどこ、トイレ? もートイレまでクド公を連れてかなくてもいいじゃない、さびしんぼうなんだかぐへっ!?」
「わふっ!? 葉留佳さんが笑ったまま気絶しているのですっ! ちょっと不気味なのですっ!!」
「誰が二人でトイレに行くのよ、勝手に気絶しちゃうしもう。まー葉留佳を荷物の上にのっけておけば大丈夫ね、行くわよクドリャフカ」
「あのー気絶させたのは佳奈多さんな気がするので……え、佳奈多さん、どこに行くんですか佳奈多さん? 佳奈多さん、そっちは出口ですよ、わふーっ!?」

がらがら〜ぴしゃり



回想終わり

「私は降りたんじゃなくて降ろされてたことに今気付きましたっ!?」
 思わず飛び起きます。
「ようやく気付いたの? ホント、アホの子なんだから」
 一方、佳奈多さんはそう言ってため息をつきました。なんかとんでもなく理不尽な気がするのは気のせいでしょーか?
「……私、アホの子なんでしょうか?」
「そうね、保証するわ」
「否定されるどころか保証されましたっ!?」

 そんな私を、佳奈多さんは面白そうに見つめています。酷いです、なんかいっつも遊ばれている気がします。わふ……



 ざわざわした山の音と、きらきら光る小さな川と、ちょっと涼しい潮風で、私はようやくぐるぐる地獄から抜け出します。ちゃんとホームが揺れてません、これで列車も安心なのです。
 目にはまわりの景色がとびこんできました、やっぱりとっても『なんばーわん』の景色なのですっ!



 ホームに降りたのは私と佳奈多さんの二人だけです、いっぱいの景色を、佳奈多さんとふたり占めしてるみたいなのがとっても嬉しいのです。
 小さな駅には駅員さんがいなくて、山の向こうにはすっかり小さくなったヂーゼルカーが消えていきます。
 二本のレールが、それを追いかけるように続いています。枕木とレールの匂いが鼻をくすぐって、旅行中なのをしっかり感じさせてくれました。初めて来たはずの場所なのに『きょーしゅー』を感じるのです。
 鈍く光る線路の上を、皆さんを乗せたヂーゼルカーがトンネルに向かって走りますます。わーんわーんという音が、山と海の音と一緒に響いてきました。
 そんな音も小さくなって、遠くから響くかたんかたんという音に変わります。でもやっぱりそれもすぐになくなって、駅は山と海の音しかしなくなりました。
 瓦屋根の家々はとっても静かで、線路は暑そうに光っていました。



「わふ……幸せなのです〜」
 おじいちゃんが、日本のことが大好きな理由がわかるのです。ぼんやりのんびり過ごしたいですねぇ。
 あれ?
「佳奈多さん、何故私を見ているのですか?」
 なんか佳奈多さんがじーっとこっちを見つめています。これが穴にはいるほど見つめるっていうものなのでしょーか?
 でも、こんないい景色なので、私じゃなくて景色の方を全身で感じて欲しいのですよっ!

「何でもないわ、でも本当に幸せそうね、あなた」
 なんでか羨ましそうに言った佳奈多さんに私は答えました。

「はい! 私はこういうのを見るとえっと……えふすたふぃを感じるのですっ!!」
「どこから突っ込めばいいのかわからないけど、私以外にはそういう事を言っちゃダメよ?」
「……私何か変なことを言ったのでしょうか?」
「あら、あなたが変じゃ無い事を言った事ってあったかしら?」
「わふーっ!? なんだかよくわかりませんが酷いことを言われている気がしますっ!!」







 しばらくして、当分列車は来なそうね、と佳奈多さんが言ったので、私たちは、小さな駅舎に入って休むことにしました。
 扉や窓がすっかり開け放たれた待合室は、冷房なんてないのにとっても涼しくて、吹き抜ける風が心地よいのです。

「次の列車は……二時間後ね」
「二時間で来るなんてすごくふりーくえんしーが高いなのですっ! 一日に一本とかかと思いましたっ」
「あなたのお国を基準にされても困るけど……まぁいいわ」
 時刻表を見ていた佳奈多さんは、自販機で飲み物を買うと、私の隣に座ります。誰もいない待合室は静かで、とってものんびりとして……

「わひゃふっ!?」

 いた私は、突然背中に冷たい何かを放り込まれて、思わず跳び上がりました。何事ですかっ!?

「新しいわね、わふーばかりだと飽きるから、次からそれにしたら?」
 そんな私に、佳奈多さんがにやにやしながら言いました。いたずらです、間違いないです、佳奈多さんは葉留佳さんのお姉さんなのです。私が保証します。
「飲み物を下さるのは嬉しいのですが、背中に入れないで欲しいのです……」
 ごそごそと服の中から缶を取り出すと、佳奈多さんが持っているのと同じお茶でした。缶のお茶っていうのはなんか珍しいです。

「アホの子に乾杯」
「そんな乾杯はいらないですっ!?」

 なんだかんだ言いながら、私と佳奈多さんは、同じお茶をごくごくと飲みました。お揃いなのはとっても嬉しいです。
 静かな待合室にお揃いの音が響きます。





「ごめんね、クドリャフカ」
「わふ?」
 お茶を飲み終わったときでした、佳奈多さんがぽつりと言いました。いきなりどーしたんでしょーか?
 首を傾げた私に、佳奈多さんが言います。
「無理に降ろさせちゃったわね、ごめんなさい」
「わふ、気にしないで下さいっ! 私もこういうところで降りてみたかったのですっ!」
 わふわふと手を振って言いましたが、佳奈多さんはうつむいています。さっきまであんなに元気だったのにどうしちゃったんでしょうか?
 もしかして、みんなと一緒にいるのが、疲れてしまったのでしょうか?



 静かな待合室に、ちょっとだけ困ります、話をやめると間が持ちません。蝉がみんみん鳴いているのですが、なんか逆に寂しさを煽っている気がするのですっ!



 あの事件があってから、輪の中に入りたそうで、でも一歩を踏み出せないでいる佳奈多さん。
 そんな佳奈多さんが、私たちの仲間になってくれれば嬉しい、私はそう思っていました。
 だから、葉留佳さんと一緒になって、今回の旅行に一緒にいきましょーっと誘っていたのです。でも、それはもしかしてご迷惑だったのでしょうか?
 いつものメンバーに佳奈多さん、これでもっと楽しくなると思ったのですが……逆にご迷惑をかけてしまった気がするのです。
 佳奈多さんは私たちと一緒の列車に乗りたがっている……そう思っていたのは間違いないと思うのです。でも、ちょっとだけやり方を間違えてしまったのでしょうか?
 その時でした、佳奈多さんがまた口を開きます。

「やれやれね、葉留佳の言うとおり。賑やかなのについていけないさびしんぼうだなんて、どーしようもないじゃない」
「佳奈多さん?」
「クドリャフカ、ごめんね、私はまだあなた達には追いつけないから、もうちょっとだけ待っていてね」
「は、はいなのですっ!」
 
 思わず直立不動で立ち上がった私を見て、佳奈多さんが笑いました。そして、私の手を引きます。

「わふ?」
「クドリャフカ、向こうに温泉があるの、お土産屋さんもあるわ。一緒にお風呂に入って、葉留佳達にお土産を買っていきましょう。あなたが喜びそうな古い温泉街よ」
「計画的犯行でしたか……」
「あなたと葉留佳に乗せられてばかりじゃ悔しいじゃない。いつかきっと、あなた達と同じ列車に乗る事になるけど、今は別な列車にするわ」
「佳奈多さんはあまのじゃくなのですっ!」
「そうよ? 今頃気付いたの? まったく、それだからアホの子って言われるのよ、クドリャフカ」
「とんでもなく理不尽な事を言われている気がするのですっ!?」



 そんな事を言い合いながら、私たちは歩きます。
 古い古い家並みと、石垣の間の水路の向こうに、海が見えます。まだまだ高いお日さまが、じわじわと熱さを降らせています。とってもわんだふるな景色です。
 その時、向こうから来る風で佳奈多さんの髪が揺れて、佳奈多さんの匂いがしました。
 とっても優しくて、ずいぶんひねくれた佳奈多さんの匂い。
 
 佳奈多さん。
 佳奈多さんが皆さんに追いつくのはいつになるんでしょうか?
 でも、いつかはきっといつか追いつくのです。私たちは、同じ線路の上を、同じ幸せに向かって走っているのですから。
 だから、その時まで私は待っています。いつも佳奈多さんを頼ってばかりですから、佳奈多さんと一緒に、みなさんの乗る列車を追いかけるのです。

 同じ線路の上を、一緒に走っ『おしまい』ていくのですよっ!

 

『おしまい』

 

 

 

あとがき

前回おりびいさんが仰っていたクドの一人称を頑張ってみようと思ったお話です。理樹の一人称ほどじゃないにしろ、やっぱり難しいデス…orz
こちらも戦時急造型なのですが、複雑な作りじゃない分、そこまで粗は目立たないと思っています…ですよね?
やはり駆け足になってしまった感はあるのですが(特に後半部)お茶目な佳奈多さんと、アホの子クド(こら)の小さな旅を楽しんで頂けたらな、と思いますw
ちなみに、エフスタフィ(エウスタシー・エフスタフィイでも可)は、どうにもこうにも名前の響きが気になってしまって…なぜだろう?あ、ちなみに誰も知らないし知りたくもないであろうこれ、帝政ロシア、黒海艦隊に所属していた前(準)弩級戦艦なのです。軍艦オタの性が…orz
で、ロケ地(?)は温泉津温泉(ゆのつおんせん)名前にお借りしている位好きな温泉なのですよ。
まぁ行ったの四年前なのでうろ覚えですがorz