空谷の跫音

 

 

 

  お部屋にいるのは私だけ、いっつも私に構ってくれる、しっかり者の佳奈多さんはここにはいません。

 お勉強を教えてくれる佳奈多さん、話し相手になってくれる佳奈多さん、雷が鳴ったとき、怖い夢を見た時に、私を抱いて寝てくれる、優しい優しい佳奈多さん。

 るーむめいとさんになって以来、いつも私の側にいてくれた佳奈多さんは、机にも、ベットにも、ばするーむにもいないのです。

 ひとりぼっちのこの部屋は、なんだか寂しくて寒いのです……

 

「わふ……」

 

 思わず口癖が飛び出てしまって、私はごろんところがります。佳奈多さんのベットに、内緒でごろっところがります。嗅ぎ慣れた匂いが私を包んで、少し安心です。

 でも……

 

「寒いです……」

 

 ずっとほったらかしにされていた毛布も、シーツも、とっても冷たくて、ますます寂しくなってしまいました。

 私は、むくりと起きあがって、机に戻ります。窓の外は真っ暗で、街灯に照らされた所を、吹雪が駆け抜けています。誰も、誰も歩いていません……

 

「わふわふ」

 

 意味なくわふわふ言ってみました。ますます寒くなりました、まいんごっとなのです。

 何か言っていないとさびしくて潰されてしまいそうなのですが、言ってみてもますます寂しいことに今気付いたのです……はぁ。

 寂しい上に自己嫌悪です。どうせ私はさびしんぼうでアホの子のダメダメわんこなんです……です……です……

 

 ……つっこみさえかえってこないのです、泣いちゃってもいいでしょーか? いいですよね、泣きますよ? 泣いちゃいますよーっ!

 

 

 

 

 

「どこからもお返事がありません……」

 お部屋は相変わらずがらんとして、とても広く見えます。一人でいるというのは、こんなに寂しい事だったのでしょーか? ずっとずっとそうであったはずなのに……

 

 がたがたがたっ!!

 

「わわふっ!?」

 

 突然大きな音がして、思わず飛び上がってしまいました。うう……今までだって佳奈多さんがいない晩はあったのに、どうして今日はこんなに寂しいんでしょう?

 私の質問には、誰も答えてくれません。また窓が鳴って、私はたまらずベットに潜り込みました。

 

 

 

 

 

 佳奈多さんの匂いがします。優しくて、優しすぎて、冷たい匂い。

 佳奈多さんは、この寮から出て行ったわけではありません、今でもちゃんと私の大切なるーむめいとさんです

 葉留佳さんと仲直りして、お二人はとっても仲良しさんになりました。……いえ、仲良しさんだったのが、元に戻ったのです。

 大切で、大切で、でもそれを言えなかった方と仲直りして、お二人で先へと進むのです。

 それはとってもいいことです。

 私は、あの時心から嬉しくて、大はしゃぎしながらお二人の周りを駆け回りました。ぐるぐるぐる……佳奈多さんが呆れて、葉留佳さんも照れる位に。

 大好きなお友達と、大好きなるーむめいとさんが仲良しになったのです。本当に本当に嬉しかったんです。これからはもっと笑顔が増えるんだ、もっと仲良しになれるんだ。私はそう思って、駆け回ったのです。

 

 だから……

 

「今日はあの子と一緒に寝るわ。三人になるから私と葉留佳は一緒のベットに寝る事になるから狭苦しそうだけど、仕方がないわ。ま、あの子がおとなしくしているとも思えないし、簀巻きにでもしておいた方がいいかしらね」

 

 そう言って出て行く佳奈多さんを、私は笑って見送りました。

 澄ましたような顔のうしろで、隠しきれないくらい幸せそうに笑っていたから、佳奈多さんが大切な方に会いにいくというのがわかったから、なのに、それなのに、私は寂しくなってしまったのです。

 

「佳奈多さん……佳奈多さん……」

 

 そんな問いに、いつも優しく答えてくれる、佳奈多さんの姿はありません。

 

 何で、どうして……

 

 そんな問いかけはいけません。

 私は、これ以上考えてはいけないのです。それは悪い子がすることです……でも……

 

 

 

 どうしてなのでしょう? なんでこんなに寂しいんでしょう?

 

 

 

 がたがたがたがた……窓が鳴ります。

 

 ごーごーごーごー……風が吹きます。

 

 なのに、この部屋は静かなんです。ひとりぼっちのこの部屋は、とても静かなんです。

 

 

 

 

 

「わ……ふ……」

 寒くて、怖くて、寂しくて、なんだか暖かなものが頬を伝いました。

 佳奈多さんと葉留佳さんが仲良しさんになったのは、とてもいいことのはずですのに、私は心からお祝いしたはずですのに……

 

 なんでこんなに寂しいんでしょうか?

 

 ぽたぽたぽたぽた、涙が落ちます。じわじわじわじわ、涙で濡れます。

 

 

 

 佳奈多さんがいたなら、佳奈多さんがここにいたなら、私をぎゅっと抱いて、頭を撫でてくれるでしょうか?

 そして、呆れたような声で「もう、怖がりね、クドリャフカは……」と言って……

 

「え?」

 私はくんくんと鼻を動かします。

 

 ……あったかな、佳奈多さんの匂い。

 

「かかかかかにゃたさん!?」

「かが多いわよクドリャフカ……」

 思わず毛布をはねとばした私に、そう言ってため息をつく佳奈多さんは間違いなく佳奈多さんです。本物の佳奈多さんですっ! 私のるーむめいとさんなのですっ!

「はるちんもいますよーっ」

「ははは葉留佳さんっ!?」

 そう言って、佳奈多さんの後ろからひょこっと顔を出したのは葉留佳さんです。あれ、でも、なんで、どうなっているのでしょーか?

「やはは……なんかそう言われると母葉留佳さんとか言われてる気がしますヨ?」

「あなたが母になるなんて世も末ね、考えられないわ。どう考えても子どもが可哀想じゃない」

「お姉ちゃん手厳しいです……っていうか、ならお姉ちゃんはどうなのよーって話ですヨ?」

「わ、私は……いい母になるわ、料理もできるし、教育だって……」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、結婚は「一人じゃできないですヨ?」とでも言うつもり?」

「……妹のセリフを途中で乗っ取る姉はいけないと想いますーっ!」

「うっさい黙れ」

 

 楽しそうに言い争うお二人を見ながら、私は呆然と座り込みます。なんで、どうして……何が起こっているのでしょうか?

 そんな私を見て、佳奈多さんがいつもみたいに優しく苦笑いをして、言いました。

 

「今夜はこの子もここで寝るから、騒がしくしたら言いなさい。猿轡かませて簀巻きにして床に転がしとくから」

「お姉ちゃん……それはなにげに虐待ではないのでしょうか?」

 葉留佳さんが言います、楽しそうに言います、でも、私も……

 

「わ、わ……」

「どうしたの? クドリャ……」

「わっふーーーっ!!」

「きゃ!?」

 

 佳奈多さんに飛びつきます。佳奈多さんが思わず倒れ込んで、こらって言って、葉留佳さんが私も私もと飛びついてきて……

 

 

 

 

 

「佳奈多さん佳奈多さん、私川の字になって寝るというのに、憧れていたのですっ!!」

「あ、いいこと言うじゃんクド公。よし、今日は川の字パーティーですよっ!!」

「何が川の字パーティーよ、こら二人ともどきなさい。クドリャフカ……もう、あなたはもうちょっとしっか……こら葉留佳、いい加減にしないと蹴飛ばすわよ」

「何だこの扱いの差ーっ! はるちんはその発言に対する謝罪と即時撤回を要きゅぐっ!?」

「わふーっ!? 葉留佳さんが吹っ飛ばされて3回転して机に突っ込んでしまったのですっ! 佳奈多さんのキックはぱわーあーっぷしてるのですよっ!」

「……やりすぎたかしら? 机壊したら始末書ものじゃない」

「わふ、それにあんまり騒ぐと怒られるかもしれません。反省なのです」

「そうね、もっと静かにしないとね。次は絞め技覚えておこうかしら」

「誰もはるちんの心配はしないのかヨ……」

 

 

 

 さっきまでの寂しさは吹き飛んで、寒さなんてどこにもなくて……だから私は……

 

「わふっ!」

「きゃ!?」

 

 心からの笑顔で、もう一度佳奈多さんに抱きついたのです。

 

 

 

『おしまい』

 

 

 

〜あとがき〜

 お読み下さいまして、ありがとうございました(平伏)

 佳奈多にずいぶんと懐いていたクドリャフカなら、もしかしてこんな気持ちになってしまう夜があったのかも……とか思って書いたお話です。

 でも、葉留佳と仲直りした佳奈多がクドの事をほっぽっておくとも思えませんし、クドの事をほっぽっておくような佳奈多を、葉留佳が黙ってみているような事もないと思うのです。

 何かご感想等ありましたらメッセージを下さいますと作者がきっと喜びますw