大切なひと

 

 

 

  ことことこと

 

 お湯が沸いたの

 

 とぽとぽとぽ

 

 ボウルに注ぐの

 

 ぽちゃん

 

 ボウルをいっこ追加なの

 

 

 

「くるくる……なの」

 大きなボウルに小さなボウル、泡立て器で混ぜたなら、刻んだチョコがとけてきて、とってもおいしい匂いがするの。

 

「うっとり」

 おいしいおいしい匂いの中で、私はゆっくりチョコをまぜるの。

 とってもたいせつな贈り物、たいせつなひとに贈り物。

 たいせつにたいせつにまぜたなら、それはとってもおいしくなるの。

 そんな時間はしあわせで、とってもとってもしあわせで、いつまでも続いて欲しい時間なの。

 

「でも時間のかけすぎはよくないの」

 スプーンですくってタルトに入れると、ほわんと甘い匂いがするの。

 作りかけのお菓子の匂い、どうしてこんなにおいしいの?

 

「……思わず手が伸びてしまったの」

 伸び先には作りかけのチョコタルト。

 これはとっても危険なの、甘く危険な誘惑なの。

 

「……でも負けないの」

 食べちゃったらおいしいけど、大切なひとにおいしいって言ってもらった方が、とってもとってもうれしいの。

 だから私はがんばるの、誘惑なんかに負けないの。

 でもうるうるするのはなんでなの?

 

「負けないもん」

 チョコをすくって、もういっかいタルトに入れるの。

 いっこいっこ入れていくの、とってもおいしい匂いがするの、それは手強い作業なの。

 

 

 

「……でもやっぱり味見は必要なの、これは決してつまみ食いじゃなくて、必要な工程の一部なの」

 とってもとってもおいしかったの。

 タルトもチョコもちょっと多めに作るのは、きっとこの為なの。ぜったいぜったい間違いないの。

 

 

 

 

 

 誰もいない台所、ひとりぼっちの台所。私はそこでお料理するの。

 ここには誰もいないけど、だけど見ていてくれる誰かがいるの。

 ほわんと暖かくて、今まで気づかなかったけど、いつもいつでも、私といっしょにいてくれるの。

 昔はさびしいだけの台所、もっと昔はとっても楽しい台所、でも、今は同じくらい楽しいの。

 ひとりぼっちで食べるお菓子より、誰かにあげるお菓子の方がおいしいから、自分に作るお菓子より、誰かに作るお菓子の方がしあわせだから。

 それにここはわたしたちのおうちだから、私は楽しくお料理するの。

 お世話になったみんなにあげるの、私の大切なみんなにあげるの、とってもおいしいチョコレートを、にっこり笑ってプレゼントするの。

 きっとみんなまとめて大喜びなの、そうしたらわたしも大喜びなの。

 朋也くん、渚ちゃん、杏ちゃん、椋ちゃん、それに……

 

 ちょっとだけ手が止まったの、タルトの上で止まったの。

 

「……私の大切なみんなにあげるの、感謝の気持ちと一緒にあげるの。今までとってもありがとう、これからもいっしょにいて下さい、そんな気持ちと一緒にあげるの」

 そう言ってのせた飾りは、ひとつだけとってもダンディーで、ちょっとお父さんみたいなの。朋也くんのよりダンディーなのは、ぜったいぜったい内緒なの。

 

 

 

 

 

『おしまい』

 

 

 

 

 

あとがきっぽいもの

 お読み下さいましてありがとうございます、ゆのつの初クラナドSSです。掌編なのに、書き出すまでずいぶん時間がかかっていたりします(汗

 ことみの一人称、不自然さが出ないように頑張った(つもり)のですが、如何でしたでしょうか?

 さて、クラナドでツボだったのがことみとことみルートだったので、幸せなことみ達を書きたい、そして、仲直りしたことみと『紳士』を描ければなぁ……と思って書きました。ほとんどそれで語り尽くせてしまうかもですorz

 何気ない掌編ですが、もしほわんとして頂けたのならば幸いです。

 ↓感想とかいただけると、とってもとっても嬉しいです(平伏)