レベリギウス奮闘記

 

 

  吾輩は軍艦である。名前はレベリギウスであるが、同じ名前の仲間が沢山いるのであまり意味はない。

 

 

 

 

 

 さて、ところで今、吾輩はグッドホープなる惑星につながれている。

 

 長年住み慣れたUFEでは、フレスヴェルグなる連中がどんどん増えてきて、そろそろ身体にガタがきていた吾輩達は追い出されたのだ。

 

 そして、その後野ざらしになっていたのだが、捨てる神がいれば拾う神もいるらしい。よくわからん連中に乗り込まれた吾輩は、あちこち連れまわされた挙げ句今いるこの惑星へとやってきたのだった。

 その後、近代化改装だの整備だのでいろいろいじられた後、ようやく今日乗員がやってくると聞いた。

 

 

 

 ちなみに、なんでも吾輩は『第二艦隊旗艦』という事になるらしい。

 ここ何年か予備艦籍にあった吾輩にとっては、身に余る光栄だ。UFEの第二艦隊といえば、まさに主力艦隊、花形、エリート集団だった。

 まぁ、今のこの国には二個艦隊しかいないとかいうことには目をつぶっておこう。

 それに一度はこのまま廃艦になると思っていたのだから、再び『宇宙』へ上がれるのは非常に喜ばしい。

 もしも武運が尽きたなら、吾輩は巨大な棺桶になるわけだが、それでも惑星につながれたまま朽ちていくよりは、戦場で艦隊旗艦として散っていくほうがどれほど嬉しいか…

 

 結局どうなるかは指揮官次第なわけだが…

 

 だが、UFEにいた頃から、このW.L.T.C.には変だが有能な人材が多いとの噂を聞いていた。大戦果をあげ、凱旋艦隊の旗艦となるのもまた悪くはない。さて…一体指揮官はどんな奴なのか…

 できればオールドソン元帥のような歴戦の強者が一番だが、若くとも切れる指揮官というのもまたいい。どちらにしろ、戦力は少ないが人材は豊富というこの国なら、そうそう無能な指揮官はあたるまい。

 

 

 

 ん?吾輩がそんな華やかな未来を想像していた時だった、宙港を歩いてくる男女が見えた。

 どうやら兄妹?いやカップルかもしれない。どちらにしろ子どもが二人だ。特に女の方はせいぜい12,3と見た。見学にでも来たのだろうか?

 戦いを前に子どもに宙港を開放するとはなかなかの自信だな、頼もしい。まぁ吾輩のような老艦には軍事機密も何もあったものではないが…

 

 

 

「おいおいレベリギウスかよ。いくら金がないからってコレじゃあなぁ…」

 と、近寄ってきた少年が、開口一番ため息混じりに言った。

 失礼な…貴様のような若僧ならともかく、しっかりした司令官に乗ってもらえれば、まだまだスコルだのフレスヴェルグだの言う連中には負けんわい。

「クレティじゃ勝てない?」

 と、少女の方が笑顔で答える。素直で屈託がないな、少女というよりは『女の子』という言葉が似合いそうな姿だった。

 そして、男の方はクレティなる名前らしい、そりゃあお主のような若僧では吾輩は扱えんよ。吾輩はこれでも歴戦の勇士、そんじょそこらのひよっこにはそうそう動かされはせん。吾輩に乗っていいのは『戦士』だけだ。

 吾輩は、二人の姿を見ながらそんなことを考えていた。

 と、少女の言葉にカチンときたのか、若僧が言い返す。

「略すな!誰がクレティだ。畜生、なんで『コレ』が参謀なんだ…フライヤーめ、絶対面白がってるぞ」

 と、頭をかかえる少年を見て、少女が頬を膨らませてこう言った。

「コレって言うなー!!」

 ははは、微笑ましいな。少女のほうがぽかぽかと少年を叩いている。子どもらしい素直な連中だ。

 たまにはこんなほのぼのとした光景を見るのもいい。

 

 何か途中で『参謀』とかいう単語が聞こえたのは聞き間違いだ。きっと散歩とかリンボーとか…

 

「いてっ!やめろお前もう16だろ、ガキじゃあるまいし…」

「ガキって言うなー!!!」

「いて…いてっやめろバカ!」

「バカって言うなー!!!」

「だーっ!どう言えってんだ!!」

「何にも言うなー!!!」

 二人は吾輩の目の前でぽかぽかとたたき合いを始めた。…やはり両方とも子どもだな。

 

 うむ、気のせいだ気のせい。16とは思ったより年長のようだが、どちらにしろこんなお子さまが参謀なわけがない、いくらなんでもそれはない。

 

 

 

 

 

 吾輩が自分にそう言い聞かせていた時、建物から一人の士官が歩いてきた。雰囲気を見る限り、なかなか有能な軍人のようだ。大方、基地で騒いでいるあのお子さま漫才コンビを注意しにきたのだろう。

 うむ、戦士達の集う宙港でこんなことをされてはかなわんからな。

 と、予想通りその士官は二人へと歩み寄り…言った。

「ようこそクレティアヌス司令、クルーソー参謀。着任を歓迎いたします」

 

 

 

 時が…止まった。

 無論吾輩の時間だけだが…うむ、少しだが経年劣化が止まった気がするな。これであと三十年は戦える。

 

 いや、現実逃避はやめよう。吾輩は今の士官の言葉を反芻する。

 

「ようこそクレティアヌス司令、クルーソー参謀。着任を歓迎いたします」

 待て…しばし待たれたい、今、司令とか参謀とか聞こえたような気がしないでもないような気がしたのだが…やはり聞き間違いだろう。うん、きっとそうだ。そうであるに違いない。

 だが、混乱する吾輩を後目に、二人は慌ててその士官を振り向いて言う。

「あ、いや、ご丁寧な挨拶どーも。このバカが騒ぐもんだからさ、はは」

「よろしく…騒いだのはクレティじゃん」

「だから略すなっ!」

 

 しかし、再び言い合いをはじめる二人を見ながら、その士官ははっきりとこう言ったのだ。

 

「…司令、参謀長、艦橋へご案内いたします」

 

 

 

 

 

 数日前、吾輩は輝かしい未来へと夢を馳せていた。

 歳をとり、もはや朽ちていくだけであろうと思っていた吾輩にも、最後の最後で華やかな舞台が回ってきた…と、そう思っていた…

 

 それなのに…

 

「うーん、ぶっちゃけ作戦立てるのめんどくさい」

「安心しろよ、お前は最初からあてにしてない」

「むー」

 もはや司令官と参謀の会話とはとても思えないような会話を交わす若僧とちびっ子。何だ…何なのだこの二人は…

 そう、吾輩に乗ってきた司令官と参謀は、見た目も中身もまるっきりの子どもだった。

 これでは話にならん。現在メガリスの艦隊が接近中という話であるが、この司令官と参謀では艦隊まるごと火葬付きの棺桶になってしまうに違いない。

 確かに吾輩は戦場で華やかに散ることを望んではいた、だが、無茶苦茶な指揮の挙げ句に全滅する艦隊旗艦として散ったとしたら、後世に汚名を残すだけではないか。これでは死んでも死にきれん。

 吾輩は暗鬱とした気持ちの中に沈んでいた。

 他の乗組員は冷静にしているが…大方信頼しているというよりも諦観の域に達してしまったのだろう。容易に想像できる。

 

 

 

 その時だった。通信が入ったことを示すブザーが鳴り、同時に哨戒艇からの通報が入る。

「こちら特設哨戒艇サンイースト23。ポイント203にて敵の艦隊見ゆ。空母20他多数」

 とうとう来たようだ。若僧が立ち上がり、言った。

 

「よし、行くぞ!」

 若僧の言葉で、艦内はたちまち慌ただしくなり出航の用意が整えられる。

 敵接近の報により暖機運転を行っていた主機はたちまち出力を上げ、繋留索が外される。

 垂直上昇用の推力が得られるやいなや、すぐに吾輩は高度を上げた。しかし気のせいか?随分と上昇速度が速いような気がするのだが?

「ん?このレベリギウス随分と動きがいいんじゃないか?」

 気のせいではなかったらしい、若僧が独語する。やはりこの前の改装で手が加わったのか?何はともあれ、出力強化とはありがたい。廃艦前提で手を加えられていなかった前の主機は、相当ガタがきていたのだ。

「私が主機をちょいと設計変更したから。えへん」

 と、そんな若僧に胸を張ってちびっこが答える。座っていた椅子から立ち上がり、ちょこちょこと若僧に近付く様子は、正直本当にこんな事ができたのか疑問に思う所作だった。

 …それにしてもちょいと?とてもそんなレベルではないぞ…?艦体中に力がみなぎり、力強く上昇していく。最大速力も二割位上がっているのではないか?これほどの事ができるとは…驚いたな。このちびっ子に対する認識を、少し改めるべきかも知れん。

 

「…なるほどな、さすがはリアラ」

「よろしい、私のすごさがわかったかー」

 さて、感心するような若僧の言葉に、ますます胸を張るちびっこ。確かにこの改造を考えたのなら凄いは凄いのだが…何かバカっぽい気がしないでもないぞ。

 しかし、胸を張るちびっ子に若僧はすぐに続けた。

「専門だけは凄いな、他はバカだけど」

「バカ言うなー!!」

 ぽかぽかと若僧を叩くちびっ子、結局はこうなるのか…吾輩は、一瞬感心したことを悔いたのだった。

 

 

 

 

 

「メガリス艦隊確認、ヴァルハラ級空母20以上、フレスヴェルグ級巡洋艦50以上」

 宇宙へと上がってすぐに、オペレーターの声が艦橋に響く。我が艦隊は速度を緩め、防衛衛星の射程内に留まる。

 優勢な敵艦隊に対し、我が方は防衛衛星等の戦力を最大限活用し、惑星の周辺での防御戦闘により勝機を見いだすつもりのようだった。

 なんと言っても、こちらは我が第二艦隊のレベリギウス級重巡洋艦が15、第一艦隊のフレスヴェルグ級巡洋艦が20、防衛艦隊のガルム級防衛艦20と防衛衛星でどうにかなるかといったところか…

 果たしてこの若僧はどう動くのか…

 

 不安と、極僅かな希望を感じながら、吾輩は若僧の次の行動を見守る。と…

 

「防衛衛星の射程から出ないよう留意しつつ戦闘開始、第一艦隊の援護を行う。敵は三個艦隊、こっちも三個艦隊で防衛衛星のおまけつき。しかも総司令官はフライヤーだ、普通にやってりゃ勝てるぞ」

 ずいぶんおおざっぱな言葉が、通信回路を通じて艦隊各艦へ伝わる。優勢な敵艦隊を前にして、緊張感が漂っていた艦橋の雰囲気も、心なしか明るくなったようだ。

 艦の性能、数、そういうものを考慮に入れた戦力比較は指揮官だけがやっていればよい、兵士はただひたすらに勝利を信じて戦うべきなのだ。

 さもなくば、不安に駆られて、少しでも不利な状況に陥ると艦隊は混乱する。一人の兵士の混乱はその艦の混乱につながり、一隻の艦の混乱は艦隊の混乱に波及する。その結果全艦隊が混乱し潰走するのを、吾輩は何度も経験してきていた。

 この若僧はそれを知ってわざとやっているのか、ただの勢いなのか…どちらかはこの後わかるだろう。

 思えば一度は廃艦同様となっていたのだ、宇宙で散れるのならそれもまた悪くない。

 

「…下がるぞ、第一艦隊の斜め後方。座標485」

 だが、そんな時に突然若僧が言った、どういうつもりか…?敵艦隊が接近中だというに…

「どゆこと?」

 ちびっ子の方も不思議に思ったのだろう、顔と口で疑問を投げかける。そんなちびっ子に若僧は答える。

「こっちよりフレスヴェルグのが射程は長い。まともにぶつかるとアウトレンジされちまうから、こっちは一気に距離を詰めるしかないんだけど、そうすると今度は防衛衛星の射程から飛び出しちまう。だからここはボウマンの奴にちょっと耐えてもらって、ある程度敵艦隊との距離が縮まるまではこっちは後方で待機、敵艦隊との距離がある程度縮まったら一気に距離を詰めて攻撃開始するんだ。大方ボウマン達も衛星の火力支援下に敵を引きずり込むつもりだろうから、しばらくしたら距離も詰まってくるはずだ」

 しっかりと言った若僧に、吾輩は驚きの目を向けた。…なかなかどうしてしっかりした戦術眼を持っているようだ、これなら期待はできるかもしれん。

 

「…よくわかんない、簡単に言うと?」

「あーもうっ、つまりだな、敵の方が射程が長いから距離が詰まるまで俺達は後方待機してるってことだ」

「なるほど、それならわかった。説明ごくろー」

「ったく、やっぱりお前は専門外になるとバカ丸出しだな」

「あーまた言ったー!!」

 うむむ、期待はできるかもしれない気はしないでもない気がする…

 

 

 

 

 

 結局、我が艦隊は艦列を崩さず後退し、敵艦隊を待ち受けた。第一艦隊、防衛艦隊から確認が来ないのは、この若僧の指揮が信用されている証だろう。

 もしかすると、乗組員が落ち着いているのも若僧を信頼しているからかもしれん、もしこの歳でそれだけの信頼を得ているのだとしたら、なかなかのものだな。

 

 

 

「敵艦発砲!第一艦隊応射!!」

「敵空母、航空部隊を発進させています!!」

 しばしの時をおき、いよいよ戦闘が始まった。空母群を後方に、フレスヴェルグが前衛となり我が方へと突っ込んでくる。

 艦数に劣る我が方だが、射撃の精度では敵に勝り、敵を一艦また一艦と屠っていった。

 しかし、敵艦隊もまたやられてばかりではない、数にものをいわせて我が方を圧迫してくる。

 撃破しても撃破してもその後方から全速で接近してくる敵艦の前に、我が方の艦も被弾し、ある艦は赤い光球となって消え去り、ある艦は繰艦不能となり列外へとよろめき出た。

 

 

 

 前面では苛烈な戦闘が繰り広げられたが、敵艦載機群が接近するに至り、航空戦力が皆無の我が方は劣勢となり、徐々に後退をはじめた。

 同時に、敵艦隊は前進を開始する。

 

 この状況は…ふむ、少々危ないか?予定通りに敵艦隊を防衛衛星の付近まで引きずりこんだとしても、敵艦載機群の攻撃が思ったより激しく、そのまま押し込まれる危険がありそうだ。

 戦場において勢いというものは恐ろしい、引きずり込むつもりが、そのまま押し込まれることも多々あるのだ。

 

 

 

「う〜ん、負けてる?」

 ちびっ子が呟いた。緊張感がないからいいものの、普通に発言すれば士気を下げかねないような言葉だった。

「む、そうだな…リアラ、こいつの速力どれ位上がってる?」

 そして、質問に質問で答える若僧の表情は、何かを考えている風だった。

「え、あー18%は向上してるはずだよ。推進器系も劣化部品取り替える時にちょっといじったし…」

 ちびっ子の言葉を聞いた若僧は、一瞬考え込み、言った。

「…よし、行くぞ」

「ん?どこに?」

「敵の親玉の所にな」

「降参するの?」

「逆」

「なるほどわかった」

 あっさりとした、緊張感のない会話。だが、その決断はとても大きい。

 まず、我が戦力だけで優勢な前衛を突破できるのか?そして、仮に数も性能も勝るそれを突破したとしても、下手をすれば味方艦隊との連絡を絶たれて各個撃破される可能性もある。まして、もし防衛衛星の火力支援下から押し出された場合には全滅は必至だろう。

 だが、一方で敵前衛を突破し、空母群を撃破すれば、補給ができなくなった艦載機群はその戦力を喪失する。

 艦載機という『兵装』を持った空母は、長大な射程を持つ最も強い艦種であると同時に、接近されれば最も弱い艦種でもある。接近さえできれば吾輩達レベリギウスの敵ではないのだ。

 そして、そのままうまくいけば敵巡洋艦隊を挟撃できる。…そう、うまくいけばだが。

 

 

 

「第二艦隊全艦へ連絡、針路781へ前進全速、敵艦隊左翼を突破する。多分あそこが一番手薄だ」

「了解」

 連絡が行き渡るやいなや、たちまち我が艦隊は敵艦隊へと突進する。

 既存のデータを元に考えていたのか、我が艦隊の凄まじい前進速度を見て、敵艦隊はやや狼狽の色を見せつつも、陣形を整えだした…が。

 

 

 

「敵艦射程に捉えました」

「よし、各艦とも撃ち方はじめ。狙いに精確さはそんな必要ない、攪乱するぞ!」

 全速で突進する我が艦隊はそのまま発砲する。光線やビームが敵艦隊へと届けられ、再び敵の陣形は混乱した。

 その動揺はモニターを通じて我々に伝わる。そして、その隙を若僧は見逃さなかった。

 

 

 

「よーし行ける、全艦に打電、我に続航せよ!」

 若僧の声に赤茶色の槍と化した我が艦隊は、たちまち敵の艦列へと突き刺さった。

 

 

 

「全周射撃、この距離ならAMMも大して効果はないはずだ。対艦ミサイルをぶっ放せ」

 適切な指揮のもと、我が艦隊に艦列に侵入された敵艦隊はたちまち混乱し、その状態のまま撃沈していく。

 確かに、フレスヴェルグに比べて総合的な攻撃力では劣る吾輩達ではあるが、艦隊同士の単純な砲撃戦ならば、むしろ優位に立てる。

 そう、一門の威力や射程こそ劣れど、対空兵器やその他の新型兵器を搭載していない分、旧来の兵装は多数搭載しているのだ。

 

 

 

「敵前衛突破!敵空母群を射程に捉えました!!」

「よし!いいぞ、砲撃開始!!前進速度は緩めるなよ!!」

 戦いの時間はたちまち過ぎ、敵の前衛を突破した吾輩達は狼狽する空母群へと射撃を加えながら肉薄する。たちまち敵の数艦が光を残して消え去った。

 いける、吾輩は勝利を確信した。敵艦隊は完全に混乱していた、空母に直接的な対艦戦闘能力はほとんどない。我が艦隊には損害はほとんどなく、このまま押し切れば我が方が…

 だが、吾輩がそう思った時だった。

 

 

 

「敵機来襲!」

「何だって!?」

 慌てたようなオペレーターの声が響き、次の瞬間多数のアインヘリアルが我が艦隊に殺到してきた。母艦が危地に陥ったのを見て、慌てて戻ってきたのだろう。

 たちまち、敵戦闘機群の攻撃で我が艦隊には被害が続出し始めた。

 

 

 

「三番艦被弾!主砲発射不能!!」

「十四番艦被弾!大破!!」

「九番艦爆散す!弾薬庫に誘爆した模様!!」

 まずい…吾輩達の最も大きな弱点、それは兵装が対戦闘機戦闘を全く考慮していないことだった。

 有効な反撃を与えられないまま、被害のみが増えていく…

 

 次の瞬間、吾輩の至近距離にいた味方艦が消え去り、それが残した衝撃と光が吾輩を襲った。

「ちっ!」

「きゃあっ!?」

 吾輩はその艦体を大きく揺らすが、なんとか持ちこたえる。しかし、艦隊の被害は増加しつつあった。

 

 

 

「ねぇ、どうするの?」

 相変わらず緊張感がないちびっ子に、若僧は答えた。

「…突っ込む、敵の艦列にはいっちまえば向こうもばかすか撃てないはずだしな。それに、艦隊の中で戦闘されちゃあおちおち補給だってできないだろう」

「ふーん、わかった」

 窮地にあっても明るさと積極性を失わないというのは、こういう時に長所となるな。吾輩、この戦いを生き残るにしろ、そしてここで消え去るにしろ、この二人と共ならばいいような気がした。

「全速だ!敵艦隊のど真ん中につっこむぞ!!」

 若僧は叫ぶ、艦隊は再び動き始めた。

 旗艦である吾輩を先頭に、我が艦隊はその数を減らしつつも敵艦隊へと突入する。

 

 既に吾輩にもいくつもの弾丸や光線が命中している。今の所は戦闘に大きな支障はないものの、遅かれ早かれ光球と化した仲間と同じ運命を辿るのは目に見えていた。

 どうするんだ…司令官?

 

 

 

 

 

「野郎!散開しやがった!?」

 そして、その時は近付いてきたようだ。我々の意図を察したのか、敵空母群は艦隊の形を解き、三々五々戦域から離脱を図る。

 戦闘機群は一度補給をするつもりか、空母へと帰還していく。

 

 そして、我が艦隊の背後には、反転してきたであろうフレスヴェルグ級が多数接近してきていた。全速で敵空母群を追撃した結果、既に防衛衛星の火力支援も期待できない。

 いくら最大速力が向上したとは言っても、吾輩の性能ではフレスヴェルグの追撃は振り切れまい。

 

 

 

 敵もさるもの…か、残念だが吾輩もここまでのようだ。吾輩は覚悟を決めた。

 しかし、最後の最後で案外いい司令官に恵まれたようだ。我が艦隊は壊滅しても、敵艦隊にはもはや惑星を攻略する余力はあるまいて。

 吾輩は、そう思いながら最後の時を待った。願わくば、この二人には吾輩が沈む前に脱出して欲しいものだが…

「敵艦隊我が艦隊に急速接…あれ、通過…します?」

 しかし、直後に吾輩の覚悟は無用のものとなった。オペレーターの戸惑ったような声が聞こえ、そして後方から接近してきたはずの敵艦隊は、我が艦隊を避けて戦域外へと離脱する。

 

 そして…その後方から来たのは…

 

「第一艦隊です!やった!助かった!!」

 オペレーターの声は、おそらく艦隊全員の声だったのだろう。

 

 

 

 そう、吾輩達は助かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で聞いたところによると、吾輩達が敵航空機群の攻撃を吸収している間に、第一艦隊と防衛艦隊は、完全に防衛衛星の射程距離内に引きずり込まれていた敵前衛艦隊に逆撃を加え、さらに吾輩達の突破戦で混乱状態になった左翼から敵後方へ進出、半包囲の形に持ち込んだようだ。

 半包囲から完全な包囲下に置かれることを恐れ、さらに戦力を消耗していた敵前衛は後退、それを見た空母群もドミノ式に撤退していったとの事だった。

 こう言うと実に簡単なようだが、UFEにこれほど短時間で、これほど完全にそれをやってのける将官がいるかと問われれば、吾輩は迷わず「否」と答える。

 

 やはりこの国が人材豊富というのは確かだったか…

 

 

 

 そう、吾輩に乗り込んだ若僧…いや、司令官もまた、勇猛果敢な若者だった。吾輩は、彼の元でこの戦いに参加できた事を誇りに思ったのだった。

 

 

 

 ちなみに、吾輩は今ドックにいる。

 修理のついでに再び改装を行うらしい、あのちびっ子…いや研究者が、今度は対空兵装もつけるんだとかなんとか言っておった。

 どうやら艦を新造する金はないようで、吾輩ももうしばらくは旗艦として戦うことになりそうだった。

 

 

 

 

 

『おしまい』