
"Let's" No.35(2002.6)
時評
非核三原則の撤廃発言が浮彫りにした有事3法案の問題性
上杉 聰(本センター事務局長)
今の国会に提出されている有事関連3法案(「武力攻撃事態法案」「安保会議設置法改正案」「自衛隊法改正案」)を、まる一日かけて隅々まで読む機会があった。その結果、私はこれらの法案が、@日本という一つの国を外敵から守ろうとするものなどでなく、東アジアで今後アメリカが行う戦争に「国内有事」という名目で協力(実質的に集団的自衛権を行使)するもので、その結果、Aアメリカに日本が従ってその国民に膨大な犠牲を払わせつつその戦争に兵站部門において現実に加わるためのもの、と考えるようになった。しかし、その後マスコミから流れてくる有事法案への批判や国会質問の内容は、日本国民が戦争に動員される危険性や憲法違反について触れるものの、とくに米軍との関連でこの法案を批判する意見がほとんど出てこなかったのが不思議だった。しかし、最近ようやくこうした記事が新聞にも載るようになり、6月になると福田官房長官から「非核三原則の見直しも」という発言が出るに及んで、有事法制の本質が鮮明になりつつある。ようやく事の本質が見え始めたと言ってよい。できればせめて継続審議にし、時間をかせいで、この法案の危険さをもっと多数の人々に知ってもらう時間がほしい。
有事関連三法案は、まだ全体の一部であり、やがて2年以内に米軍の行動支援のための法案≠ニ国民のための各種保護法案≠ェ提出される予定になっている(全体で何本の法律になるかは不明)。国会では野党から、それら肝心の部分が未提出であるために法律全体の趣旨がわからないという追及がなされ、その際は各種の保護法案≠ノついて概略なりとも早く出すよう要求されている。だが、そのまえに米軍の行動支援のための法≠ツいて解明しなければ、重大な問題を見落とすことになるように思われる。この度の有事関連法案が、やがて明らかになる米軍の行動支援のための法≠ノその本質を表すだろうことは、提出中の法案によって「有事」がいつから始まるかを見れば明らかになる。三法案の一つで総則的な規定を述べている「武力攻撃事態法案」は、「有事」となる「武力攻撃事態」を定義して、「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態または事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう」(第2条)とする。ここにある「武力攻撃のおそれのある場合」と「武力攻撃が予測されるに至った事態」がいったい何を意味するか、その区別や関連は国会で追及されてきたが、「周辺事態法」('99年成立)を見るとすぐわかる。その第1条には、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態への対応」と書かれている。つまり「有事関連法案」は「周辺事態法」の内容と完全に一致しているのであり、それと連動するものなのである。この法律案は、「日本の有事」のためのものでない。「周辺有事」のためのものなのである。
つまり、「周辺事態法」は米軍への協力を自衛隊や地方自治体が行うよう定めているが、「集団的自衛権」に触れるとして武器・弾薬の米軍への提供はできないことになっているし、物資の徴発についても強制条項を盛り込んでいない。しかし、いざ朝鮮有事となると、米軍は約200隻の軍艦と約100万人の軍隊が極東に押し寄せ、約2000万トンの軍事物資が必要になるとして、これへの対処を日本に要請している(以下、「統合幕僚会議資料」)。多数の戦艦が日本各地の港に寄港し、兵士は日本で休息・治療し、武器・弾薬とともに日本国内約30カ所の空港と港から朝鮮へと出撃する体制を整える計画が出されているのだ。中国との戦争(すぐさま考えられるのは台湾海峡有事)についても同様の体制がとられることを意味しよう。
だが、もし直接に武器・弾薬を米軍に提供・輸送するとなると、憲法が「集団的自衛権」を禁止しているという法制解釈の壁が大きく立ちはだかって不可能だし、国内の物資(石油・食料・水)や労力を強制的に徴集・徴発することには、基本的人権を保障している憲法と強い抵抗が国内にある。そこで、自国を守るため∞備えあれば憂いなし≠ニいう煙幕で、これらの憲法的な制約を突破しようというのである。とくに米軍との関係で問題となるのは、武器・弾薬での協力関係である。現在、東アジア最大の米軍の武器庫が広島に「秋月弾薬廠」として存在していることは意外と知られていない。コストの面から米軍はここにすべての武器・弾薬を本国から送っていったん貯蔵し、必要に応じて日本国内の米軍基地にトラックなどで輸送してきた。有事体制下でこの輸送は自衛隊が行い、各地の港湾・空港において米軍の軍艦・軍用機に搭載し、そこからアジアに向けて発進することになるだろう。その中には、小型原爆も含まれるというのが自然な解釈である。
今年3月11日、ロスアンゼルス・タイムスは、ブッシュ政権が「7カ国に対する核使用計画」を検討しはじめていることをスクープしたのは記憶に新しい。これが、主に地下深くにある基地を攻撃するための小型原爆であることを、杉田弘毅「ブッシュ米政権の新核戦略」(『世界』'02.6)が明らかにしている。「核を持たず・作らず・持ち込ませず」という非核三原則を「周辺有事」のもとで撤廃し、核兵器を米軍が日本国内で自由に貯蔵・輸送・発進させることができるようにするのみならず、自衛隊もその任務に共同して携わることが検討されていると考えてよいだろう。福田発言の前には安倍晋三副官房長官も、同じ内容を早稲田大学て述べている(『サンデー毎日』'02.6.2)。有事関連3法案の次には米軍の行動支援のための法案≠提出する予定である以上、核兵器を日本国内で自衛隊に扱わせるのみならず、アジアに向けて日本から自由に飛び立たせることが首相官邸でおおっぴらに話し合われていると見るべきだろう。
有事関連3法案は、日本が米軍と一体となって東アジアに対して威嚇を行うだけではない、「国内有事」を騙(かた)って核兵器の使用を含む米軍との共同作戦を始めようとする憲法違反の法律案である。そして日本国民は、その戦争へ罰則をともなう強制力を伴って従わされることになる。沖縄の軍事植民地状況が全国化されるだけではない、
日本全土を戦争国家へと作り上げるものである。その結果、私たち民衆がどのような被害を受けるかは、「自衛隊法改正案」の第115条の4に、「墓地、埋葬等に関する法律の規定は、出動を命ぜられた自衛隊の隊員が死亡した場合におけるその死体の埋葬及び火葬については、適用しない」という規定を忍び込ませていることから推測できる。つまり、現行の法律によって死体は斎場で焼き、墓地に納めるよう定められているが、そうした規定によって処理できない大量死がここでは想定されている。自衛隊員の周囲には、当然にも同様に、野焼きされ、空き地に埋葬されるしかない無数の民間人の死体も予想される。これは「自衛隊法」の改正案であるため、民間人の規定が書かれていないだけなのである。つまり、反撃として北朝鮮からテポドンや中国から核弾頭ミサイルが飛来することを想定した上で、少なくとも数万人単位の死者がでることをこの法律案は折り込み済みなのだろう。考えるだけで恐ろしく、愚かさを極めた法案である。 以上