Let's  No.44(2004.9)  

         ああ、情報公開法
                                                                                                           吉田   裕


 院生たちの話で、防衛研究所戦史部で「東久邇宮日記」が公開されている事実を初めて知った。朝日新聞の記者が、情報公開法に基づいて、戦史部が所蔵している未公開史料のカードの公開を要求、公開をしぶる戦史部の側が結局は折れて、全ての未公開史料のカードを公開したことは知っていた。しかし、新聞記者からの情報では、史料カードの公開によって戦史部所蔵資料の全容が明らかになったとはいえ、未公開資料の大部分は以前未公開のままだということだった。私自身、未公開資料のカードを全てチェックしてみたが、その中には「東久邇宮日記」などの貴重な資料が多数含まれていた。しかし、非公開では何の意味もない、と長嘆息したのが昨年の春の頃のことである。

 その「東久邇宮日記」が公開されているという。さっそく戦史部図書館に行ってみると、未公開資料も審査を終えたものから順次公開してゆく方針であるらしい。これ幸いと未公開資料のカードの中にあった次の史料の閲覧を申請してみた。「橋本以行手記第2編 揚子江遡江作戦」である。1937年の南京攻略戦の時、揚子江を遡江して南京に突入した海軍の第11戦隊は、南京からの脱出をはかる多数の中国軍民を揚子江上で殲滅した。南京事件にかかわる海軍の戦争犯罪だが、その実態を示す史料に乏しく、以前から関連史料を探していたため、史料カードの中に第11戦隊に属していた橋本以行の手記を発見した時は、思わず声をあげてしまった。淡い期待をこめて、その史料の閲覧を申請したわけだが、結果はやはり「非公開」だった。南京事件に関しては、まだ隠している史料があるな、というのが、この時の私の第一印象である。

 それにしても、現行の情報公開法には本当に腹が立つ。情報公開法とはいえ、公開の対象は行政文書であり、歴史史料は公開の対象となっていない。歴史史料は、国立公文書館や戦史部などの各省庁の図書館で別途公開する建て前になっているが、情報公開法の制定に伴い、それらの図書館が情報公開法の非開示規定を横すべりさせた非公開原則を新たに定めてしまった。このため、個人情報を記載した資料は公開しないなどという措置が、いわば合法化されたのである。

 この個人情報の非開示原則が最大のネックになって歴史史料の公開が大幅に遅れている。何とかならないだろうか。情報公開法の制定に伴って、独自の資料館を持たない省庁が保有している歴史史料は国立公文書館に移管するという措置がとられたようだが、その公文書館での公開も遅々として進まない。それにもかかわらず、研究者の間から情報公開を求める声があがってこないのはなぜだろうか。色々と思いをめぐらすと、多少気が重くなってくる。

 

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