Let's  No.38(2003.3)

「性」について考える―教えながら学んだこと


                       尹 明淑


 初めての東京は土砂降りの雨でした。友人の家に向かう舗道は土砂降りの雨に濡れて
いました。舗道に落ちては跳ね上がる大きな雨粒を見ながら、ソウルで降る雨と同じだ
なと思いました。一九八五年六月一五日。私が来日した日のことです。もう一八年余り
前のことになりましたが、私は一時帰国していた日本留学中の友人と金浦空港から一緒
でした。そのため、一人だったら経験したかもしれない異国での初日の不安はまったく
ありませんでした。むしろソウルから国内の他都市に来たような感覚でした。

 こうして私の日本での留学生活が始まったのでした。一〇月になって日本語学校に通
いながら、週二回、友人が紹介してくれたアルバイトもしました。目黒の家から二、三
分しか離れてないところにある喫茶店でした。厨房には高校を中退したという一七、一
八歳の青年が一人、ホールには私以外には女子高校生が一人いました。まだ日本語がほ
とんどできないのに、雇われたのが不思議だったのですが、行ってみたら分かりました
。喫茶店のメニューを覚え、数字さえ数えれば間に合いました。このとき、二三歳でし
たが、ある日、一六歳の女子高生に、顔が赤くなる質問をされてビックリしました。彼
女は厨房の青年のガールフレンドらしく、店にはたまに来ていたので顔見知りではあり
ました。ある日、彼女は聞きました。「ユンさん、初体験はいつですか」。「ハッ?」
と聞きかえすしかありませんでした。
 
 当時の私としては、性に関する話題は、それがどういう話であれ、恥ずかしいもので
あるとしか思っていませんでした。初体験の質問をされて恥ずかしいと思ったのは、私
がそれまで受けた性教育のせいだったのでしょう。いや、性教育と言えるものを受けた
ことがなかったからといった方が正しいです。教育といえば、学校でも、家庭でも、女
の子として行動を慎むように、また女性は結婚するまで純潔を守るべきものとして教わ
ったのです。その一方、男の子には、男の子だから童貞を守るべきだとかの教育はあり
ませんでした。性教育においても、男女差別があったのです。私は、例えば男女間の「
性」問題は個人的なものだと思いますが、「性」に関する論議はもっと公の場で語られ
る必要があると思います。

 それに、女子だけに純潔を強要してはいけないと思います。以上のような話が時代遅
れだと思いますか。今は性が男女ともに解放されすぎて困ると、未成年者の援助交際も
あり、未成年者の性経験は日に日に低年齢化していくし、と。このような意味において
性が解放されたと言うのならそうかもしれません。しかし、これは性の解放と言うより
、性の乱れと言った方が正しいでしょう。そしてまだまだ公の場で性を語ることが少な
いと思います。これからは男女ともに主体である性を語るべきでしょう。私が公の場で
性を語るべきであると言ったのは、学校での性教育のことを含みます。

 昨年私は東京外国語大学で非常勤講師をしたことがあります。一学期だけの短い時間
でしたが、講義のテーマは性暴力がキーワードでした。このテーマは最後に軍隊慰安婦
問題に関する講義のための前提学習のようなものとして位置付けました。そして、前提
学習の一つとして、日本の大衆雑誌の記事を通じて女性の性がどのように男性の視点か
ら語られてきたかを見ました。書店の店頭の本棚に陳列された週刊総合雑誌を一三冊買
いました。そのうち、〈表〉 にあるような雑誌の読者はそのほとんどが男性です。これ
らの雑誌記事にはもれなく、女性が商品化されており、女性の性や肉体は男性の目を通
じて描かれていました。性の悩みに関する相談コーナーでさえ質問に対して、セックス
のテクニック問題にすり替えて刺激的な答えの文章が溢れていました。書き手もほとん
どが男性でしたが、女性であっても視点は男性の目から語っていました。記事のなかで
語られた女性は、これでもかと言わんばかりに、女性が男性の性欲を満たす手段として
描かれます。例えば、二〇〇二年一一月一八日付の『週刊大衆』には、「三軒茶屋本格
性感ギャルは絶妙舌使い」という見出しの広告記事が女性たちの全裸や上半身裸体のカ
ラー写真(七ページ)とともに掲載されています。また同じ雑誌には、「乱れまくりAV
映像集」という見出しでアダルトビデオの女優たちがナースに扮して様々な性的なポー
ズを撮ったカラー写真を八ページにも及んで載せています。

 女性を性商品にする店の広告や記事を日常的に接することは、女性を男性の性欲を満
たす性の対象または手段としてみることに、抵抗感が薄れる効果が高いと思います。ま
た、女性が性的行為の主体として記事化される場合は、そのほとんどが性的欲望に喘い
だ末、分別のない行為をする女性を描く記事が多くありました。これらの記事で共通し
ていたのは、女性は性における主体ではなく、男性の性的対象としての商品化された女
性であるということでした。このような記事が掲載された大衆雑誌は、〈表〉であげた
雑誌だけでも、毎週三四七万部が発売されることになる。発売部数は各会社が実際より
多く発表したものであり、発行部数が全部売られるわけではないにしても、毎週三〇〇
万もする雑誌が以上でみたような女性差別的な性認識を繰り返し、多くの男性に読まれ
ているということです。今回、韓国の大衆雑誌をみる機会がなかったので具体的なこと
を比較することはできませんが、日本社会における性認識が男性中心的であるというこ
とと同様なことが韓国社会にも当てはまると思います。
 
 また、大学生に身近な話題として、性暴力犯罪のセクハラ・アカハラ(アカデミック
・ハラスメント)に関しても講義しました。大学教授によるセクハラ事件は日本と韓国
の大学で起きた実例をあげて説明しました。事件の経緯や加害者に対する処分、事件の
解決に臨んだ大学当局の対応などを紹介しました。毎回の授業の最後に、私は学生に一
〇分ほど時間をあげて、講義に関する質問や意見を出させていたので、この日も講義の
あと書いてもらいました。色々な意見がありましたが、そのうち気になる意見がありま
した。三つ紹介します。

@「セクハラの加害者が悪いのは当然だが、セクハラされる方も責任がある。セクハラ
が起きそうなところは行かなければいい。男子は本能的に性について女子より関心が多
いから、このようなことは女性が知るべきである。そして、行動や服に注意すべきであ
る。」
A「セクハラ犯罪の対策には、特に女性の自己保護意識を必要とすると思う。」
B「やはりセクハラは起こってほしくないので、まずは自分たちでしっかりと分別ある
行動をしたいです。」

 三人とも、大概の男子・女子学生と同様にセクハラは性暴力の犯罪であると認識して
います。それにもかかわらず、以上の三人の意見は、性犯罪が起きた責任を加害者の男
性だけにではなく、被害者である女性側にも問うています。これはどうしてでしょう。
他の犯罪の場合を考えてみてください。例えば、殺人はどうでしょうか。盗みは?これ
らの犯罪の場合、被害者にも責任があると言うのでしょうか。もちろん、周りからこれ
から盗まれないように戸締りをきちんとした方がよいとは言われるでしょうが、盗まれ
た家も責任があるとは言いません。殺された責任なんて言ったら、話の相手にもされな
いでしょう。なぜでしょうか。それは社会の誰もがどんな事情があったにせよ、殺人や
盗みが悪いことであり、加害者が悪いと認識しているからなのです。これらの認識に比
べて性犯罪はどうでしょうか。女性がミニスカートを履くと狙われやすいから、身なり
を慎まないといけないという風に言います。こうした理屈は、いままで女性の性までも
男性中心に語られて来たからだと思います。そして、男性は本能的に性欲をコントロー
ルできないという言説がありますが、それは男性が一人の人間としての人格を自ら放棄
するもの以外に何者でもないと思います。性に関する論議のうち、男女同等な性認識は、
男女が社会のなかで平等に生きていくためにも、必須です。このような認識は社会・
学校・家庭のなかでの性教育を通じて伝える必要があり、伝えるべきであります。以上
でみたように、歪曲された性認識が性犯罪を生かせつづけていると思います。

 以上のように、性犯罪と性認識のことを通じて、性教育がなぜ重要なのかをみました。軍隊慰
安所制度は日本軍による性犯罪の一つの形態です。軍隊慰安婦問題は女性差別・性差別
問題であります。したがって軍隊慰安婦問題は性教育とともに中学校や高校で正しく教
えるべきであります。また、軍隊慰安婦問題は女性差別・性差別問題だけでなく、民族
差別や日本の植民地支配と関わる問題でもあるので、日本の歴史を通じても教えるべき
だと思います。正しい情報が伝わってからこそ正しい認識が持てるのだと思います。
    

                          (ゆん みょんすく・一橋大学社会学研究科)
 

雑誌名  発行部数 グラビア (2002年11月18日発売分)
1  週刊ポスト  74万 「鬼才竹中直人が取りおろす誌上のエロティックムービー」
2  週刊現代  72万   「26歳の完熟シーン」:6ページの半裸の写真
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6  週刊朝日  33万 10月25日発売にはなく11月15日発売にはある。      中国の国民的美少女は現役軍人さん
7  週刊実話 30万 裸体工房

(注) 発行部数は http://www.ja-tottoriseibu.or.jp/present/ienohikari.htm  と
   http://ousama.hp.infoseek.co.jp/shukansi.htmより作成。部数は少ない数値を引用。

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