Let's  No.38(2003.3)

「女たちの戦争と平和資料館」建設に向けて
      ―松井やよりへの追悼を込めて―      

            西野 瑠美子 (VAWW-NETジャパン共同代表)


 
 昨年10月に、アフガニスタンのカブールで体調を崩し、帰国後、肝臓癌の告知を受け
た松井やよりさんは、それからたった2ヶ月半という速さでこの世を去った。激しく行動
的に生きた闘うフェミニストはその最期の日々まで未来を語り続け、嵐のように私たち
の前から去っていった。
 女性抑圧の時代に、彼女は女性の開発と人権を自らの生き様を通して切り拓き、世界
の女性たちに闘う勇気と智恵を与えた。女性国際戦犯法廷で証言した東ティモールの「
慰安婦」被害女性は入院先に彼女を見舞い、「私の命をあなたに分けてあげたい」と励
ました。松井さんがどれほど抑圧されてきた女性たちにとって大きな存在であったかを
垣間見る出来事だった。
 松井さんが最後に発したメッセージは、「慰安婦」をはじめ女性に対する暴力の記録
を軸に据えた、女たちの、女たちによる、女たちの資料館建設構想だった。彼女が書き
残した理念は、ジェンダー正義の視点に立つ、加害責任を明確にした記憶の館であり、
いかなる国家権力とも無縁の、国際連帯を基盤にした女たちの活動の拠点というものだ
った。
 彼女は女性の地位の低さは抑圧の構造であり、経済・政治的・軍事的抑圧、労働者階
級として自国の独裁政権・特権階級の抑圧、家父長制の伝統の中で男性により受けてい
る性差別という3つの抑圧を指摘していたが、とりわけアジアに身を置いた時期に出会
ったアジアの女たちの姿は、彼女の中にあった「権力に対抗する」闘争心を強く掻き立
てたようだ。彼女は「女たちの苦しみに思わず涙したが、過酷な運命に立ち向かう女た
ちの姿に感動して流した涙の方がむしろ強く印象に残っている」と語っているが、「闘
う女たち」「怒りを沈黙しない女たち」の姿が彼女を突き動かしたのだと思う。
 松井さんの中には常に軍事主義と原理主義への対抗という意識があった。原理主義の
名の下に抑圧され暴力を受けている女性たち。文化・伝統・慣習もまた、暴力が見逃さ
れていく建前にされてきた。
 「慰安婦」被害女性たちは最も底辺で抑圧されてきた女性たちの表象である。女性国
際戦犯法廷は、グローバリゼーションとジェンダーとオルタナティブという課題の中で
発想し、人々の誰もが信じようとはしなかった「正義」をあえて被害者の尊厳回復のよ
りどころにし、「裁き」を「慰安婦」問題解決のオルタナティブな社会運動として打ち出し
た。松井さんは「法廷は人生の誇りだ」と語っていたが、その成果が実を結ぶのはこれ
からだ。
 昨年12月12日にバウネット・ジャパンとアジア女性資料センターのメンバーが中心に
なり「女たちの戦争と平和人権基金」を立ち上げ、資料館建設運動を開始した。資料館
建設は「法廷」の判決を実現するための一つのプロセスだ。現在、資料館建設準備委員
会を中心に「1億円キャンペーン」を始めているが、すでに大きな反響が寄せられている。
2、3年後の建設は夢ではない。募金に添えられた熱いメッセージを読むにつけ、人々
の支持は「怒りの共有」ではないかと感じている。
 ナチの戦犯を追及し続けたサイモン・ヴィーゼンタール氏は「記憶の中にこそ再生へ
の可能性が秘められている」と語ったが、記憶は憎しみと悲しみの連鎖を断ち切るに留
まらず、「平和は誰のものか」を未来に生きる人々に問いかけていく「生き続ける民衆
の声」である。資料館建設が、女性の人権・平和・非暴力を願う人々の民衆運動として
育っていくことを強く願っている。   


     「女たちの戦争と平和資料館」建設支援のお願い

1億円キャンぺーンの郵便振込み口座 00110-2-579814 女たちの戦争と平和人権基金係

                   お問い合わせ  VAWW-NETジャパン   03-3818-5903

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